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平和な日常~冬~

そして穂乃香は近衛邸で一人考え込んでいる。

今回の一件の表向きの問題は秘密結社完全なる世界から明日菜を匿うリスクだが、根本的にあるのは今だに世界を左右するヨーロッパを中心とする白人達の権力闘争の歴史であった。

そもそも魔法世界の人々はヨーロッパにおける権力闘争に敗れた魔法使い達なのだから。

現在のヨーロッパにも反メガロの魔法協会は存在するし、表向きは親メガロの姿勢を示していても本心から彼らに従ってない者は多い。

仮にここで明日菜を追い出しても木乃香の安全は一時的なものでしかないだろう。

メガロも今は近右衛門が高齢なことからあまり手出しはして来ないが、近右衛門亡き後は必ず関東魔法協会に手出しをしてくると穂乃香は確信している。

その際に彼らが木乃香を利用する可能性は残念ながら低いとは言えない。

友好や協力などと自分達に都合がいい綺麗事を並べ、麻帆良を再び自分達の勢力圏に置こうとするだろう。

世界でも有数の経済大国である日本は彼らからすると喉から手が出るほど欲しいはずなのだ。

昨日穂乃香はネギとその祖父が去ったメルディアナの現状を聞かされて愕然とした。

メルディアナは現在完全に内部分裂しており、冷戦状態のまま組織は機能不全に陥っている。

ネギの従姉妹のネカネ・スプリングフィールドも祖父が去った後にはナギやネギの血縁者として冷遇されてしまい、最近メルディアナ魔法学校の教師を辞めて祖父を頼って魔法世界に渡ったと聞かされた時は人事ではないと感じた。


「踏み止まるのは今しかないわ」

関東や関西の明日菜の正体を知る一部の幹部からは、木乃香と明日菜は引き離すべきだとの意見が穂乃香や近右衛門にはちらほらと聞こえているが近右衛門も穂乃香もそれを完全に否定している。

彼らは目先の危機で理解してないが孫や娘の為に亡命に近い明日菜を切り捨てたと周りに思われると、近右衛門や詠春の求心力は確実に低下する。

一旦仲間として受け入れた以上は最後まで守り通す覚悟を貫かねば、遅かれ早かれ魔法協会は崩壊するだろう。

木乃香の未来を守る為にはここで踏み止まるしかないし、その為には木乃香や明日菜に魔法を隠し続けるのは限界が近いのが実情だった。


「気になるのは……」

事態は概ね穂乃香の予想通りではあるが、唯一誤差というか予想と違っているのはやはり横島の存在である。

穂乃香が思っていた以上に横島の存在は大きく、横島の決断と対応次第では木乃香や明日菜の今後を根本的に考え直す必要があった。


「彼も感じてるはず。 万物の声にならない声を。 もしかすると私の目的にもすでに気付いているかも」

穂乃香は昔から声にならない声を感じる不思議な子だと言われている。

世界樹の意思を感じたことは元より、長年大切にされた物などからまで明確ではないが漠然とした意思を感じる瞬間があった。

それは一言で言えば霊感の一種なのだが世界の環境の違いからか霊能力の発達が未熟なこの世界で、かつての横島や令子どころかそれ以上の霊感を持つ穂乃香は間違いなく天才である。

そんな穂乃香だからこそ横島は、自分と同じ声を感じてると直感的に理解していた。


「あの子は無意識に彼に私と同じモノを感じたのかもしれないわね」

初めて自分と同じモノを感じる人に出会った穂乃香は、ふといつだったか木乃香が語った横島との出会いの話を思い出す。

とても占いには似つかわしくない格好と雰囲気だったけど、なんとなく気になって声をかけたのだと木乃香は笑って教えてくれたのだ。

木乃香自身は偶然の出会いだと思っているようだが、幼い頃より穂乃香と一緒だった木乃香は彼女ほどではないが声にならない声を感じる素質は十分にあった。

木乃香は横島に自分と同じモノを無意識に感じて声をかけたのかもしれない。

そう思うと穂乃香は娘が自ら掴んだ出会いに運命のようなモノを感じてしまう。


「あの子達にはもう少し男性を捕まえておく方法を教えるべきかしらね」

思わずクスッと笑みをこぼしてしまった穂乃香は、夫である詠春の若い頃を思い出し少し懐かしい気持ちになる。

大切な人は自分で捕まえておかなければならない。

そもそも男性は本質的に放っておくと、雲のようにフラフラと流れていくものなのだと穂乃香は思うのだから。

娘である木乃香には雲を掴む方法を教えるべきかもしれないと、割と真剣に考えながらこの日の夜は更けていく。


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