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平和な日常~冬~

次から次へと店を訪れては去っていく学生達を、穂乃香は少女達と会話を楽しみながらも店内から見つめていた。

昔と変わらぬ店内に居てそんな学生達を見ているとふと自身の学生時代を思い出してしまい、当時の感情から考えていたことまでリアルな記憶が蘇り懐かしさが込み上げて来る。

自分の中ではそれほど昔だったという感覚は今この時までなかったが、そんな学生達の中に自分の娘が混じってる姿を見ると時の流れの早さを感じずにはいられない。


(そういえばこの店だったわね)

明日菜達を相手にいろいろおしゃべりをしている穂乃香だったが、実はこの店の前の麻帆良亭には何度も来たことがある。

穂乃香が幼い頃は割と学生が集まる賑やかな店だった記憶があるが、大学生の頃になると学生が気軽に騒げる店ではなくなっていた。

幼い頃には当時麻帆良学園で講師をしていた近右衛門に連れられて亡くなった母と家族一緒によく外食に来たのも懐かしい思い出だし、当時は近右衛門がよく学生に声をかけられていたのも何となく覚えている。

そして穂乃香が大学生に入る頃になると、騒ぐ学生などが来なくなった影響で隠れ家的な店として訪れる学生達が多かった。

穂乃香自身も大学生の頃は、よくここの個室を借りていろいろ話しをしたのだ。


「穂乃香さん?」

「ごめんね、ちょっと昔を思い出してただけよ。 実は私も大学生の頃はよくこの店に来てたわ。 雪広君や那波君と一緒にね」

昔を思い出した影響か穂乃香は少しぼうっとしていたのだろう。

明日菜が少し不思議そうに声をかけると、穂乃香は懐かしそうに昔の話を始める。


「あやかちゃん達は知ってるでしょうけど、私が大学生の頃に麻帆良学園がちょっとした転換期だったのよ。 明治以来学園を運営していた外国人達が撤退したわ。 そんな時ちょうど大学生だった私達はここでいろいろ話し合いをしたことがあるの」

そっと目を閉じて当時を思い出しながら語る穂乃香の表情は、昔を懐かしむようであり少し寂しげな様子でもあった。

明日菜やあやか達はその表情の意味を考えつつも話に耳を傾けていく。

それは転換期が来た麻帆良が変わりゆく姿の一端であったが、元々学園と保護者に限定したような麻帆良祭を拡大して商業化した経緯や過程を語っていた。

無論魔法関連は上手く隠したが、商業化の真の目的が麻帆良学園の自立的な収支の安定だということは隠すことなく語っている。


「国際化に対応した自立心の育成ではなかったのですか?」

麻帆良祭が現行の形になった本当の理由を語る穂乃香に、明日菜達はもちろん驚くが真っ先に目を驚きつつも疑問を口にしたのは少し遠慮がちに話を聞いていた夕映であった。


「もちろんそれも理由の一つではあるわ。 ただ自由な教育には何よりお金がかかるのよ。 麻帆良が自由で自立心ある教育を続けるには何よりお金が必要だったの。 私達と同年代の学生はみんな知ってることよ。 雪広グループと那波グループが中心となり計画して、私達当時の学生が形にしたんだもの」

どうも夕映の好奇心をくすぐる話題だったようだが、穂乃香はそんな夕映に理想に必要な現実的な話を始める。

麻帆良学園が他の学校より個性的で独自性のある教育が出来る理由は表向きは明治以来の特別な法律があるからだが、同時に財政的に自立してるからでもあった。

特別な法律の影響で日本政府からは補助金の類が一切ない代わりに口も出さないと言うのが現実であり、それを守る為に苦労したのだと穂乃香は語る。


「みんな必死だったわ。 特に大学生は後輩達に自分達と同じような自由な教育を受けさせたいってね」

麻帆良の大学生は特にバイタリティ溢れていることで知られるが、それが現在日本で有名なのはそんな二十年前の出来事が一つのきっかけらしい。

綺麗事では済まされない現実の一端に驚く少女達だが、明日菜を含めてそれが必要なことはみんな理解していた。

それは横島と関わって以降それぞれの立場で様々なことを学んだ成果なのだろう。

穂乃香は少女達がその話の意味をきちんと理解出来てることに何処か嬉しそうだった。



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