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平和な日常~冬~

正直思っていた以上に落ち着いてるとの印象を受けるし、事前に聞いた話とはかなりギャップがある。

見た目の年相応か少し若いような印象があった穂乃香だが、彼女が見た横島の姿は年齢以上に落ち着いて見えた。

ただ一般的に人が人を見ただけで相手を瞬時に理解するというのは不可能に近い。

それは例え穂乃香や近右衛門のような高位の魔法使いや術者でも同じであり、特に相手が同じ魔法を使う者ならば尚更相手を瞬時に理解することなど不可能になる。

そもそも初見で相手の本心を知ることが出来るならば、近右衛門もあれほど苦労はしてないだろう。


「いい店ね」

ゆっくりとした空気が流れる中、穂乃香は柔らかな笑みを浮かべて店内を眺めるように見つめている。

時の流れを感じさせるような赴きのある店内の雰囲気を壊さぬように配置されたクリスマスグッズなどの新しい物が、渾然一体となるそこはある意味では麻帆良らしい店だとの印象があった。

娘がここで日々成長したのかと思うと、母親としては感慨深いものがあるのかもしれない。


(なにか血が騒ぐような……?)

一方の鶴子は少し違った視点から横島を見ていた。

彼女の横島の評価は今のところ可もなく不可もなくと言ったところだが、何故か血が騒ぐような微かな変化が胸の奥底で起きている。

元々鶴子は純粋に穂乃香の護衛で来ており、それ以上でもなければ以下でもない。

同行した時に聞いた話や知った事実を他言することはないし、基本的に行き先や会う人に関して事前に知らされることはほとんどない。

そしてそれは横島に関しても同じであるが、詠春や穂乃香から横島の名前を聞いたことは当然あるし木乃香と関わりが深いはぐれ魔法使いだとは聞いている。

穂乃香や詠春と違い事前情報がなく、一番素直に横島を見れたのは間違いなく鶴子だろう。

そんな彼女が横島を判断する上で重要視する要素はやはり強さであった。

生粋の剣士にして神鳴流史上でも一・二を争うと讃えられる彼女は天才の一種であり、その感性は闘いにおいては実戦経験の乏しい穂乃香を遥かに上回る。

現状の横島は決して脅威に感じる力があるようには感じないし一見すると斬ろうと思えば斬れるような印象があるが、それを彼女の本能が否定するように胸の奥がざわめいていた。


(少し勘づかれたか)

鶴子の現状は一切の気の乱れもなく、その心中は穂乃香すら気付いてないだろう。

ただ横島は鶴子の魂が微かに揺れたのを感じる。


(魂が騒いだか?)

鶴子は血が騒ぐとの印象を持ったが横島はそれを魂が騒いだのだと受け取った。

それは横島を警戒してのモノではなく、純粋に強き者を求める鶴子の本質からのモノだろう。

結婚を機に引退したとはいえ、彼女の強さを求める本質はさほど変わった訳ではない。

平穏な生活を望みながらも心の何処かでは今だに強さを求めている。

実際横島のような特殊な例を除けば、純粋な戦士には少なからずそういう部分があった。


(魂が騒ぐのは俺の方か。 勘づかれたのはそれが原因かも)

鶴子の強さは本物であり、刀子が語ったように剣士としては詠春を越えてるだろう。

横島は強者を望む鶴子の魂に、自分の中にある小竜姫の魂が珍しく反応した気がする。

まあ単純な戦闘力はエヴァの方が鶴子より上だろうが、彼女は基本的に強者との出会いなんて求めてない。

何処までも純粋な剣士として強者を求める彼女は、ある意味では小竜姫の好みの相手なのかもしれないと横島は思う。

それはほんの一瞬の出来事だった。



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