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平和な日常~冬~

「フェイト・アーウェルンクスの件は知ってるでしょう? あれは本当に危険な存在なのよ」

「お嬢様がその連中に狙われる可能性があると……?」

木乃香の安全のためと言い切る穂乃香に対して刀子は懐疑的な様子であった。

フェイトを始めとした秘密結社完全なる世界の存在を危険な要素の一つに上げるも、刀子には木乃香が直接狙われるとは思えない。

確かに二十年前の戦争の際には彼らは暗躍して戦争を煽ったらしいが、一般的な情報しか知らない刀子としては彼らの最終目的は知らないし連中が再び戦争を煽っても日本にはさして関係するとは思えなかった。


「少なくとも私と夫はそう考えてるわ」

何かもっと深い訳でもあるのではと思う刀子だったが、もちろん口に出すことはないし穂乃香も自分達夫婦の考えであるとだけ語る。

まあ穂乃香とすれば連中の真の狙いを刀子には教えるべきか迷うが、それは近右衛門の判断でするべきだし刀子にも過剰な責任を負わせたくはない。

結局は大戦で連中と戦った詠春が危険だと考えたからだと語るに留まった。


「現状でお嬢様に魔法を明かせば、お嬢様の人間関係に与える影響は非常に大きいと思われます」

魔法を明かそうとする理由について追求すべきではないと考えた刀子は、素直に木乃香の現状に与える影響の大きさを語る。

まあそれを穂乃香が重要視するのかしないのかまでは刀子には分からないが、木乃香は横島を取り巻く人間関係の扇の要とも言うべき存在なのだ。

下手をすると全てが無くなってしまうのも満更有り得ない話ではない。


「そんなに影響を与えるかしら? 横島君は協力してくれそうにない?」

刀子の言葉と懸念は些か穂乃香の予想を越えるものだった。

穂乃香とすれば明日菜を一緒に扱い横島を説得出来れば、後は概ね上手くいくと考えていたのだ。

尤も横島がどんな人物かも穂乃香はまだ分からないし場合によっては変わるが、横島には木乃香達と同じ安全の保障と加えて多少でも何かしらの優遇をすれば説得は可能だと考えている。

そもそも穂乃香が現実的で横島に求めたいのは現状維持が第一であり、万が一の時に魔法協会と協力してくれればそれでよかった。

自分から魔法協会への加入を望まぬ者を入れても役に立つはずもない訳だし。


「横島君は協力はしてくれるとは思いますが、彼とお嬢様を取り巻く人間関係を彼がフォロー出来るとは私には思えませんので」

そんな横島に協力して貰えば木乃香の環境を最低限は現状維持出来ると考える穂乃香だったが、刀子はその考えが少し甘いと感じる。

正直刀子には横島がそこまで周囲の人間関係を上手くフォロー出来るとは思えない。

言い方は良くないが中途半端に得体の知れない秘密を抱えるよりは、いっそ木乃香と横島が付き合うなり婚約させる方がまだ周囲も納得するだろうと思うのだ。

言いたくても言えない共通の秘密を抱えているという状態は、ある意味では一番友情を失う可能性が高かった。

刀子自身も横島に正式に協力を要請するのには賛成だが、それは警護や万が一の時の対応には有効でも木乃香の人間関係までもフォローしてもらうのは無理がある。


「穂乃香様も横島君達に会えば分かると思います。 ただ一歩間違えれば取り返しのつかないことになる可能性もあると私は思います」

恐らく穂乃香は以前の木乃香のままのイメージで考えているのだろうが、現状の木乃香はあの店の中心的な存在になっている。

注目度も影響力も以前とは比べものにならない。

まあ刀子からすると穂乃香が何処まで木乃香の現状を変えないことを望むかは分からないし、安全やその他の理由と天秤にかけて変えざるおえないこともあるだろうと思う。

ただ出来ればあの店のあの環境は守ってやってほしいと、刀子は口には出さずとも願っていた。


そして穂乃香は刀子の言葉と様子から、この件が与える影響を考え直す必要があると認識する。

穂乃香も近右衛門や詠春から横島達などの周囲の友人と木乃香の現状は聞いてはいたが、正直そこまでデリケートな関係だとは思ってなかった。

木乃香へ魔法の存在を明かすことは必要な時期だが必ずしも今でなければならない訳ではないし、そして同時に木乃香が築き上げて来た友人達との関係は最大限に考慮したい。

やはり一度会わないとどうしようもないなと穂乃香は結論付けていた。


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