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平和な日常~冬~

さてこの日の穂乃香は朝から挨拶回りで忙しかった。

私的な立場と用事で麻帆良に来たとはいえ、関係者への挨拶回りは欠かせない。

詠春と違い特に込み入った話をする訳ではないが、麻帆良に来た時は最低限の関係者に挨拶回りはしている。

まあ挨拶に来る人と来ない人では印象がまるで違うし、中には挨拶にも来ないのかと気分を害する人も居ない訳ではない。


「刀子はんも元気そうでなによりやな」

「穂乃香様も青山先輩もお元気そうでなによりです」

そして穂乃香と鶴子の二人は、中等部を訪れて刀子にも挨拶に来ていた。

時間はちょうどお昼休みの頃であり刀子が空いてる時間に来たのだが、緊張気味の刀子に対し穂乃香と鶴子はリラックスした雰囲気だった。


「父と娘がいつもお世話になってます。 今回は少し相談したいことがありまして」

穂乃香来訪の用件は主に挨拶と近右衛門と木乃香の警護の近況を話すことであったが、穂乃香は続けて現在近右衛門と木乃香へ魔法の存在を明かすことを考えていると刀子に打ち明ける。


「そうですか……」

形式上は相談とは言われたが、相手は木乃香の母親であり主家の人間である。

刀子はその内容に驚きつつも自分から個人的な意見を口にすることはなかった。


「今日は単刀直入に葛葉さんの本音を聞かせてほしいのです。 現状で木乃香に一番近い関係者は貴女ですから」

自ら意見を語らぬ刀子だが、その表情は決して喜びではなく僅かに複雑そうな感情が見える。

穂乃香はそんな刀子に単刀直入に本音を教えてほしいと頼み込む。

現状で木乃香に一番近い魔法協会関係者は紛れもなく刀子であり、刀子が横島とも親交があり横島と木乃香達の現状を一番近くから見ているのは穂乃香も理解してるのだ。

無論近右衛門や高畑の意見も重要だが、同じ女の意見として刀子の意見は欠かせないものだと考えていた。


「えっと……」

ただ突然本当を聞かせてほしいと言われても、実際に何をどこまで言っていいのかは別問題であり刀子は困ったように言葉が詰まってしまう。

正直デリケートな問題なのは考えなくても分かるし、横島との関係もそうだが木乃香と現在の友人達の関係も微妙に絡んでしまうのは明らかだった。

明日菜や夕映達との信頼関係は嘘などない関係だからこそ成立しているし、ここに横島を加えると美砂達もまた信頼関係というか一種の協調関係を維持している。

ある意味では横島を中心に置いて一番近い木乃香に一切の嘘偽りがないことから、周りの少女達は愛情と友情の微妙なバランスが保たれていた。

木乃香への魔法伝達はその人間関係を根底から崩壊させる危険がある。

女の勘は決して馬鹿に出来るモノではないし、木乃香だけが横島と共通の秘密を抱えれば誰かが気付くだろう。

というか夕映や美砂がその辺りに気付かないとは刀子には思えない。

まあ魔法協会のことや近衛家の未来を考えれば木乃香へ魔法の存在を明かすことは仕方ないのだろうが、刀子には穂乃香が何を何処まで望んでるのか理解出来なかった。


「お嬢様を近衛家の娘として育てるお積りでしょうか?」

しばし悩む刀子を穂乃香は静かにじっと待っていたが、刀子が最初に返した答えには流石に苦笑いを浮かべてしまう。

穂乃香としては木乃香の安全面での問題から魔法の存在を明かすつもりだったが、他から見るといよいよ近衛家が後継者問題に動いたと勘違いされ兼ねないのだから。


「貴女にはきちんと話す必要があるみたいね。 父はどうだか知らないけど、私と夫は木乃香に近衛家の娘として生きる道に引き込むつもりはないのよ。 今回の件も木乃香の安全のため」

正直あまりに複雑でややこしい話に刀子は若干尻込みしているが、穂乃香は木乃香への魔法伝達と後継者問題は別だと言い切っていた。



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