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平和な日常~冬~

「いっそ、明日菜ちゃんもうちの子になるか? 俺は一人や二人増えても構わんが」

そのまましばらく真面目に話していた横島だったが、明日菜が少し考え込むと突然おかしなことを真顔で口走る。


「ちゃんと大学まで卒業させるし嫁に出してもやるぞ。 ただし変な男を連れて来たら、ちゃぶ台ひっくり返してうちの娘はやらんって怒鳴るけどな」

「もう~、どこの頑固親父ですか。 それになんで妹とかじゃなくて娘なんです?」

それはあまりに突拍子もない言葉であり明日菜と木乃香はポカーンとするが、横島がどこぞの頑固親父の如く振る舞うと言うとつい笑ってしまう。

まあ二人もそれが冗談だとは分かっているがはっきり言うと横島に頑固親父は似合わないし、そもそもの問題として何故年が近い横島が父親なのか理解出来ない。


「横島さんって、やっぱり変や」

「なんでか知らないけど、時々父親目線になるのよね~」

怒鳴り方の練習でもしようかと相変わらず真顔で呟く横島に、木乃香と明日菜はやっぱり横島は変人だとシミジミと感じる。

ただ二人はここで明日菜が本気で横島の娘になると言えば、横島ならば本当にやりかねないとも思ってしまう。

なまじタマモやさよを預かった前例があるだけに、冗談が本当になりそうで若干怖かった。


「まあ冗談は置いといて成績も上がってるし、もう少し余裕がある生活した方いいと思うけどな。 俺も協力するしな」

冗談だと笑っていた木乃香と明日菜がいつの間にか横島ならば本当にやりかねないと少し呆れたような表情に変わると、横島は我慢していた笑いを吐き出すように冗談だと笑って言い切るが、同時に将来を見据えて考える必要があるとも話していく。

実のところ横島は明日菜を娘にする気など本当にないし、明日菜が高畑との関係を改めて考えてくれればと思って話しただけである。

家族とは何か親とは何かを、明日菜も少し考えるべき時なのだろうと横島は思っていた。


「頼るべき人に頼って甘えるべき人に甘えるのは悪いことじゃないって。 俺なんていつも周りに頼りまくってるぞ」

相変わらずどこまでが冗談でどこまでが本気なのか周りが理解に苦しむような横島だったが、それでもその言葉は確かに明日菜の胸に届いていく。


「言われてみると横島さんと高畑先生って真逆よね。 横島さんはすぐに人に頼るけど、高畑先生って基本的に一人でなんとかしゃうもの」

改めて横島と話していると明日菜は横島と高畑の生き方が本当に真逆なことに気付き、少し不思議な気分になっていた。

正直明日菜の基本的な価値観は高畑を見て育った影響も無くはない。

そもそも明日菜の周りの大人は高畑にしろ近右衛門にしろ清十郎にしろ、横島ほど簡単に人を頼る人間はいなかったのだ。

明日菜が早くから自立した原因もそんな大人達の影響が色濃く出てるのは確かだろう。

だが横島は人を頼る代わりに、頼って来た人を助けることも何度かあった。

まあどちらが大人として立派かと言えば高畑や近右衛門達だとは思うが、時には横島のように人を頼ってもいいのかなとも思い始める。

それにタマモやさよの親代わりをしてる横島を見ていると、明日菜の高畑への見方も確実に昔と変化しているのも事実だった。

例え血が繋がらなくとも無理に親子の関係を変える必要があったのだろうかと思い始めているのだ。


「もう少し高畑先生と話してみますね」

この時明日菜はもっと高畑と話をしてみるべきかもしれないて考えていた。

横島のように高畑には高畑の想いや考えがあるだろう。

少なくともそれを聞いてみたかったし、聞くべきだとも思った。

結果的に少しだけ迷いが晴れた明日菜を、横島と木乃香は何処かホッとしたように見つめていた。



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