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平和な日常~冬~

無論教師達のほとんどは悪気はないが、中には本職を疎かにしてボランティアをする高畑への皮肉を込めて横島を影の担任と呼んでいた者もいる。

実際刀子も笑い話として教えてくれて高畑には内緒だと言っていたが、天然か嫌みかは不明だが本人に話した教師が居るらしい。


「明日菜君はね、僕の恩人から預かった大切な子なんだ。 それなのに僕は……」

どんどん力なく落ち込んでいく高畑は、正直かなり酔っ払っている。

よほど溜まっていたのかそれとも熱燗にしたのが悪かったかは不明だが、見た目年下の横島としては下手に励ますのも逆効果になるので黙って聞くしかない。


「高畑君や、間違いに気付いたならば直せばいい。 君はまだ手遅れではないはずじゃ」

結局横島は何も出来ずに近右衛門がそんな高畑を宥めて元気づけていく。

正直言ってることが事実なだけに、そんなことないと安易に否定も出来ない。

実際高畑の教職放棄は女子中等部の教師みならず魔法関係者の間でも半ばネタ扱いだった。

世界は救えても受け持ちの生徒は救えないと馬鹿にしたようなネタまで囁かれていたことまでは、幸いなことに高畑の耳には入ってないらしい。


「すまんのう。 高畑君はいろいろ抱え込み過ぎていたんじゃ」

その後高畑はとうとう酔い潰れて眠ってしまう。

ずっと愚痴を聞いて励ましていた近右衛門は眠った高畑にホッとしつつ、横島に巻き込んでしまったことを詫びていた。


「これが現実ってとこでしょうかね」

何が高畑の地雷だったかははっきりしないが、近右衛門が横島の意見を割と気にしていたことが原因だったかもしれないと二人は思う。


世界の為に失った仲間の為にがむしゃらに突っ走っていた高畑がふと立ち止まると、何一つ守れてはなく自分の居場所すら貞かではない。

そんな状況で冷静になれという方が無茶なのかもしれないと横島と近右衛門は思う。


「高畑君の恩人は本当に素晴らしい男じゃった。 高畑君は彼や昔の仲間達の意志を継ごうと無茶をし過ぎたんじゃよ」

静かになった店内で眠る高畑を見て現実という言葉を口にした横島は、何故か少し寂しそうだった。

近右衛門はその表情の意味を考えつつも、ふと高畑の師匠であるガトウの話を名前と詳細を伏せた上で横島に語って聞かせる。

例え細部を理解出来なくてもナギやガトウ達などの世界の為に戦った者達の真実を、横島のような次なる世代には知ってほしいとは思う。

近右衛門自身は赤き翼の連中には恨み言もたくさんあるが、一人の人間として彼らの想いと戦いは正確に次の世代に伝えるべきだとも考えていた。

そして出来れば高畑には横島のような友人が出来てほしいとも願っている。

自分の寿命はこの先何十年もある訳ではない。

自分が亡くなった後に高畑を本当に止めてくれるような存在はそうはいないのだ。

眠る高畑に憧れや羨望ではなく寂しさを見せた横島ならば止められるかもしれないと、微かな期待を近右衛門は抱いていた。

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