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新しい生活

同じ頃、都内の某映画館では令子と西条が映画を見ていた

おキヌが里帰りしている間に令子との関係を深めようといろいろ誘った西条だったが、令子が選んだのが映画だったのだ


西条に今話題の恋愛映画だと言われて見に来た令子だったが、最初の15分で飽きてしまっている

その後は無表情で映画を見てはいるが、内容など全く頭に入ってない


(何してんだろ私……)

こんな三流の恋愛映画など見たくもないと、昔の自分なら鼻で笑っただろう

令子は、何故自分が此処に居るのか不思議であった


時々手を握ろうとしてくる西条の手をかわしつつ、令子は思考の渦に飲み込まれていく


(未来の私はなんで横島君と結婚したんだろ?)

ふと思い出したのは、未来の横島の真剣な眼差し

今でも毎日のようにあの夢を見る令子だったが、改めて考えた事は無かったのだ


(まさか私の未来にあんな可能性があったなんてね)

今でもあんな未来は有り得ないと思う

いくら成長しても令子にとって横島は横島なのだ


(もしかして未来の私も同じ経験をしたのかしら…?)
 
改めて考えてみると、令子にはいろいろ疑問が出て来る

未来が一つでは無いのは知っている令子だが、未来の自分と横島がどうやって結婚したかわからない以上、あの未来がこの先に待っているかもしれないのだ

もしかしたら未来の横島と結婚した自分も、同じように一度離れたのかもしれないと令子は考えてしまう


ズキッ!!


そんな妄想じみた考えをしていた令子は、突然横島に叩かれた頬の痛みを思い出す

自分に本気で殺気を向けた横島の瞳と、同時に横島を抱きしめる魔鈴の姿も…


(有り得ないわね… 私が横島君と結婚する未来は……)

最後の横島の姿を思い出すと、絶対あんな未来にはならないと令子は確信する

自分に別れを告げた横島が、あれほど自分を愛する事は無いと理解してしまう



「令子ちゃん… 令子ちゃん」

深い思考の中をさ迷っていた令子を現実に引き戻したのは、西条の声だった

どうやら映画はとっくに終わっていたらしい


「ゴメンね、横島君。 ちょっと考え事をしてたの。 行きましょう」

令子は西条に笑顔で話して席を立ち上がり歩いていく


「ああ……」

横島と呼ばれたショックと自分には見せない令子の笑顔に、西条はしばし呆然としてしまう


(偶然だ… ただ呼び間違えただけだ。 この映画はあまり楽しそうじゃ無かったし、寝ぼけてたんだ)

西条は一瞬で頭を切り替えて令子を追って歩いていく

しかし心の中には、言いようの無い苛立ちが静かに積み重なっていた


「令子ちゃん、恋愛映画はあまり好きじゃないみたいだね。 次は別のにしよう」

映画に続きお決まりのコースのように、高級レストランに令子を連れて来た西条は笑顔で令子に話しをする


「まあまあだったわよ。 映画なんていつ以来かしら…」

西条に答えるように笑顔を見せる令子だったが、明らかに先程の笑顔とは質が違う

この後二人は、酒を飲みに行って深夜遅くに令子を事務所まで送って別れることになる


「横島君か…」

帰りのタクシーの中で西条は、あの時の言葉と笑顔を思い出す

最近全く見る事が無かった、幼い頃の令子を思い出すような無邪気な笑顔に西条は言葉がでない


この日、西条は酷く不愉快な気分のまま帰って行った

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