このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

平和な日常~冬~

横島自身もかつての高校時代にはバイト漬けの日々でほとんど学生らしい生活を送ってないだけに、明日菜の状況は他人事には思えない。


「ワシと高畑君は出来れば明日菜君に新聞配達を辞めてもらい、ここ一本に絞らせたいと考えてるがどう思う?」

そんな困ったように本音を話す横島に近右衛門は自分と高畑の意見として新聞配達を辞めさせたいと語るが、横島は即答せずに少し考え込んでしまう。

そもそも近右衛門は以前から、横島が木乃香達を働かせ過ぎないようにいろいろ気をつけているのは理解していた。

高畑にとっては内心ではショックかもしれないが、現在の明日菜を日常生活において一番近くで見守りサポートしてるのは紛れも無く横島である。

成績アップなどがその典型で、バカレッドと呼ばれていた明日菜の成績アップによる精神的な影響は非常に大きい。

そういう意味で近右衛門は横島の意見を純粋に聞きたかったようだ。


「最終的に本人の意志を尊重するならいいと思いますよ。 俺も彼女が望むなら学生の間の雇用は保障します」

近右衛門の言葉に明日菜の現状や将来を真剣に考えた横島は、その考えの方向性に賛成して今後の明日菜の雇用を二人に約束する。

現状で明日菜には明確な将来像はないが、もう少しアルバイトの負担を減らして学業や学生生活に比重を移すべきなのは考えるまでもない。

結果として明日菜の収入は減ることになるが、元々横島から辞めさせるつもりは全くないので安定雇用の約束で落ち着かせるべきだと判断したようだ。

横島としては強制せずに明日菜を納得させられるならその方がいいとは思うのだろう。


「すまないね。 僕がもう少ししっかりしていたら……」

そんな横島の答えに近右衛門は満足げであったが、高畑はホッとしたと同時に少し後悔の表情を見せていた。

そして悠久の風の活動を一時的にとはいえ辞めて以来、ショックを受けたことをぽつりぽつりと語り出す。

いつの間にか気が付けば周りの教師ばかりではなく、担任の生徒にまで気遣いされる状況だったこと。

親代わりのはずの明日菜が成績を本当はかなり悩んでいたことに全く気付けなかったこと。

担任の生徒達が当然のように、自分にではなく横島を頼る姿もショックだったと高畑は本音をぶちまける。

「高畑君……」

それはあまりに突然の告白で近右衛門でさえ驚き横島と顔を見合わせるが、流石に近右衛門も横島もとっさになんと言っていいか分からず言葉が詰まってしまう。


「横島君が知ってるか分からないけど、中等部の教師の間で君は2-Aの影の担任と噂されていたよ。 それを教えてくれた同僚の教師は笑い話として語っていたが、僕は内心で恥ずかしくてたまらなかった」

いつの間にか酒を飲むピッチが早まっている高畑は、情けないなと笑いながらも中等部の教師達が噂していた横島の話まで語っていく。

実は横島も刀子から以前に聞いた記憶があるが、女子中等部の教師の間で横島は影の担任と呼ばれている。

それは別に横島が意図した訳ではないが麻帆良祭で2-Aを事実上纏めていたのが横島であることや、二年に入ってから横島の影響でA組の成績が上がったのだからそう噂されていた。

特に成績の件は教師の実力を計るバロメータの一つであり、高畑が居ない時にはそろそろ職員会議に横島が来てくれないかと笑い話になったことが何度かあったらしい。


48/100ページ
スキ