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平和な日常~冬~

一方新堂のスタッフに世界が違うと言われた三人はといえば、この日は大福を作っていた。

共同作業の三日目以降にはバターの代用品でバタークリームを作って試食したりはしてみたものの、はっきり言えばバターのコクが薄く油の感じが残るが噂ほどマズくないというのが結論だった。

横島と新堂ならば調理過程で調整すれば使えなくはないと言うのが分かったのだが、本音を言えばそこまでして代用品を使う意味はないだろうとの答えも出てしまう。

そもそも完全に昔と同じ物を作るならばバターの代用品のマーガリンなんかを当時の技術と製法で作る必要があるが、流石の横島達もそこまでして味が落ちる物を作る意義を見出だせなかったのである。

尤も横島が雪広グループに頼んで当時の資料でも取り寄せようかと言うと、流石に新堂のスタッフ達がそこまでしなくてもいいのではと止めることになったが。

今回の主役たる新堂と木乃香は横島のペースに乗り気味であり、全く止める気がなかったこともスタッフ達がのどかを歓迎する一因になる。


「本当は専門機器があると楽なんっすけどね」

さてこの日は大福ということで横島の店で試作をしているが、洋菓子の専門器具が揃う新堂の店に対し横島の店は専門機器はあまりないのが実情だった。

洋菓子や和菓子作りは結構体力を使う仕事であり、横島は基本手作りなのだが手間がかかって大変なのは確かである。


「味を維持しながら量産するのは大変ですものね」

調理が大変なんだよなとこぼす横島であったが、新堂はそれに同意しつつ横島に大福作りを教わっていく。

そもそも洋菓子専門のパティシエである新堂は、大福作りなど専門外だったのだ。

元々お菓子作りが昔から好きだったので全く作った経験がない訳ではないらしいが、商品として販売するレベルではないと自認してるらしい。


「基本はこんなとこっすかね。 後は中身の餡次第でまた変わりますけど」

いつの間にか横島によるお菓子作り教室に変わっていたが、これに関しては横島というより新堂の要望が色濃く出た結果だった。

大福に関しては和菓子の分野だが、中身の餡などが洋菓子のクリームの店もある。

新堂と木乃香の合作として、木乃香が望む年配者にも受け入れられるスイーツとの条件では有力な候補だった。

ただ新堂の恐ろしいところは確たる経歴もなく見た目も年下に見える横島に、何の抵抗もなく頭を下げて学ぼうとするその純粋過ぎる姿勢なのかもしれない。

おかげで横島も木乃香達の時と同様に新堂に合わせてきめ細やかに教えてはいたが、それでも彼女の学習スピードが木乃香と同様に常人とは異なるほど早いのには新堂のスタッフやのどかを改めて驚かせていたが。

在り来りな言葉になるがまるで水を得た魚のように学ぶ新堂に対し、恐ろしいほど的確に指導する横島の姿を見たスタッフ達は木乃香の実力の根源を見た気がした。

歯車がピタリと噛み合うように教え学ぶ姿は、プロの目から見るとただただ驚くしかないらしい。

正直新堂の学習スピードも普通ではないが、そんな新堂の実力や癖や何を学び何を求めてるか的確に把握してる横島も普通じゃなかった。

そしてそんな二人を見て以前から横島の指導スピードに慣れている木乃香が、時折自らもアドバイスするのだから彼女もやはり普通じゃないと改めて見られている。

何よりスタッフ達が衝撃なのは三人ともとても楽しそうなことだろう。

元々新堂のスタッフとしていろいろ経験してる彼らだが、似たようなタイプを合わせるとこれほど凄まじいのかと感じたのは仕方ないことだった。



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