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平和な日常~冬~

「一緒にって…… 下手すると俺達は足を引っ張るだけになりますよ」

「私はいい機会だと思ってるわ。 貴方とは一度一緒の仕事をしてみたいと思ってたもの。 それに私が普通に作っても誰も驚いてくれないのよね」

新堂の予期せぬ提案は実は横島も事前に少し考えていた。

ただ横島や木乃香は素直に助かるが、すでに経験もありパティシエとして成功している新堂は必ずしも横島達と共同でやる必要はないのだ。


「まあ確かに面白くはなりそうですけど……」

「そうでしょう。 私も今年が最後だから去年や一昨年と同じだとつまらないのよね」

単純に自身のスイーツをアピールするならば新堂にとっては一人でやる方がいいのは確かだが、彼女はそれ以上の何かを求めている。

来年卒業する新堂にとって、これは大学生活最後の晴れ舞台なのだ。

周りが驚くような面白いことがしたいと瞳を輝かせる新堂の気持ちを、横島は結構理解出来る様子であった。

しかし木乃香と近くで話を聞いていた明日菜なんかは、誰もが緊張するような晴れ舞台のパーティーでの料理披露に面白さを気にする新堂と横島は、ある意味似た者同士かもしれないと密かに思う。


「木乃香ちゃんどうする?」

「うーん、ウチには難し過ぎて分からへんわ。 単純に新堂先輩と一緒やと心強いんやけど、ウチの実力だと不安もあるし……」

結局横島と新堂はある程度相手の気持ちを理解してしまい横島はもう一人の主役である木乃香の気持ちを確かめるが、木乃香は次元の違う二人の価値観に素直に着いていけなかった。

そもそも大会当日から感じていたが、新堂には横島のような桁違いの実力を木乃香は感じている。

はっきり言えば時間が経てば経つほど何故同時優勝出来たのか、木乃香自身が一番不思議だったのだ。


「じゃあ一緒にやってみようか? いい勉強になるぞ」

「そうね。 それに近衛さんが自分の実力を積極的にアピールしたいと思わないのならば一緒にやることもいいと思うわ。 こういう言い方は失礼かもしれないけど、今の近衛さんがこれ以上注目されるのは貴女の為にならないわ」

「横島さんと新堂先輩がええなら、ウチは全然問題ないです。 よろしくお願いします」

そんな迷う木乃香だが、最終的に横島と新堂に任せる形で共同でスイーツ作りに同意する。

実のところ木乃香が新堂と組んで問題があるとすれば、新堂が語ったようにパーティーでの木乃香の知名度や評価が上がりにくくなるということだけだった。

先程新堂が説明した通りパーティーは料理大会優勝者にとっては絶好のアピールの場であり、木乃香が本気でアピールしたいのならば格上の新堂と一緒でない方がいい。

ただ横島も新堂も木乃香が現状でこれ以上評価されることは、マイナスにしかならないと考えている。

そもそも横島が新堂の提案を受けたのも一番の理由はそれだし、新堂もまた若い木乃香が実力以上に評価されることを心配しており、同時に横島のそんな本音を密かに見抜いていた。

クイーンと讃えられる新堂と組めば木乃香も注目度はあがるが、同時に木乃香個人の実力と評価はうやむやになる。

元々学園長の孫として注目を集める以上、木乃香への負担は減らした方がいいのだ。


(それにしても……)

木乃香の同意により共同参加が決まり横島はホッとするが、同時に新堂が予想以上に木乃香を気にかけていることに横島は少し驚いていた。

横島自身が木乃香の為に共同参加を受けたことも瞬時に見抜かれていたし、直接の後輩でない木乃香の将来まで案じている。

彼女が何故あれほど人気がありクイーンと呼ばれているかを横島は改めて感じていた。



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