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平和な日常~冬~

十二月も入って数日が過ぎると、麻帆良では期末テストに向けて街の空気が微妙に引き締まる頃だった。

横島の店でも店内で勉強する少女達が少しずつ増えており、ここで勉強すれば解らない問題を誰かが教えてくれる為に馴染みの客が集まりやすいようである。

もちろん一般的には図書館や学校で勉強する者の方が圧倒的に多いが。

ただそんな少女達が集まるのは放課後からなので、基本的に午後の三時頃まではいつもと変わらぬ様子だった。

ただ最近の日中の特徴としては、地道に大人の客が増えていたことか。

特に近隣の主婦層の客が、体育祭以降少しずつだが増えている。

持ち帰りスイーツの客はある程度落ち着いたが、その客の何割かが店に寄ってくれるようになったのだ。

夕方頃になると学生が増えるのは有名らしく、空いてる日中に大人の客がやってくるようになったらしい。

加えて木乃香の料理大会優勝メニューであるベジスイーツのランチも、現状まで爆発的なヒットこそしなかったがその分だけ安定した人気を維持していた。

他の大会スイーツ二品に比べて大量生産が難しく店内で食べなければならない商品なので販売個数自体はさほど多くなかったが、このランチを求めて来る客は日中には結構多い。



「貴方も今月のパーティーに出るんですって」

「ええ、木乃香ちゃんのおまけですけどね」

さてそんなこの日店を訪れていたのは、千鶴の祖母である那波千鶴子だった。

秘書と運転手の二人を連れての来店だが、彼女も時々フラリと来る客である。

以前には千鶴とあやかの父親が揃って来店したこともあり、雪広家も那波家もかなりフットワークの軽い人々らしい。


「千鶴も一緒にお願い出来ないかしら?」

「はい?」

見た目は千鶴と同じく柔らかい雰囲気の千鶴子だったが、突然突拍子もないことを口にして横島をポカーンとさせる。


「せめて年に一度は公式なパーティーに出て欲しいのよ。 でもあの子そういうの好きになれないみたいで」

驚き固まる横島に千鶴子はお願いの理由を語るが、横島からするとそんなこと言われてもと困惑するしか出来ない。

正直頼む相手を間違えてるとしか思えないが、木乃香の料理大会では調理機器を無料で借りたし食材の差し入れも結構貰ったので無下にも出来なかった。

無論千鶴子はそんなことを貸しと考えての頼みではないが、横島としては断りにくい状況である。


「俺はパーティーの経験なんてほとんどないっすよ。 逆に恥をかかせることになるかも」

「その点は千鶴が自分で出来るから大丈夫よ」

一応横島はパーティー関係は自信がないと素直に告げるが、千鶴子が求めてるのはそこではないのは横島も気付いていた。


「バランスを取るってことですか?」

「ええ、一言で言えばそうなるわね。 木乃香ちゃんの初めての出席であやかちゃんと千鶴が一緒なことが重要なの」

明確な言葉こそ避けたが横島が確信を突く言葉を告げると、千鶴子は嬉しそうに笑みを浮かべ秘書は驚き横島を見つめる。

正直千鶴子は答えのヒントを口にはしていたが、即座にその答えにたどり着くのは簡単ではない。

まして二十歳そこそこにしか見えない横島が一瞬で答えを見つけたことに秘書は驚いたようだった。


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