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平和な日常~冬~

「あら那波さんいらっしゃい。 それと貴女達は確か……」

「あっ!?」

その後木乃香のパーティードレスを買いに行く一行だったが、そこに居たのは顔見知りの人物だった。

尤も会話もしたことがないほどで知人と言えるほどでもないが、横島の店に時々持ち帰りでスイーツを買いに来ていたお客さんの一人である。

店内で食べて行ったことはないが、夏休み頃から週に一度くらいのペースで来ており割と古い常連の一人と言えるだろう。


「ああ、十二月のパーティーね。 そういえば体育祭で優勝してたものね。 それにしても貴女が学園長先生のお孫さんだとは思わなかったわ」

ドレスを買いに来たショップは先程の紳士服店とは対照的に人通りの多い繁華街にあり、周りも人気のある店が並んでる場所にあった。

流石に三軒目ともなると慣れて来たのか臆することなく店内に入るが、ちょうど店にデザイナーの女性が居たらしく接客に現れる。

どうも千鶴が常連のようだが、そのデザイナーはまだ若く三十代前半だろう。

しかも彼女は横島の店の常連でもあったことから、話はとんとん拍子に進み事情を話し木乃香のドレスが欲しいと告げていた。


「木乃香って顔が売れてる割には家族とか知られてないのよね」

デザイナーの女性は木乃香が近右衛門の孫だったことに驚きつつ幾つかのドレスを用意してくれるが、周りの少女達は木乃香の素性が意外と知られてないことに少し驚いている。

体育祭や横島絡みでいつの間にか麻帆良では有名人の枠に入ってる木乃香だが、その素性はビックリするほど麻帆良でも知られてない。

そもそも横島の店で働いてることの方が有名であり、まさか学園長の孫が中学生から働いてるとは思いもしないのだろう。

まあ隠してる訳ではないので知る人ぞ知る事実としてそれなりに知られているが、一般的な人々からすると知らない方が大勢だった。


「ごめんね、現状で在庫があるのはこのくらいなの。 パーティードレスは大人向けのサイズがほとんどだから」

そして木乃香の前には三着ほどのパーティードレスが並ぶが、デザイナーの女性は種類が少ないことに申し訳なさそうである。

実のところパーティードレスを購入する購買層の主流は大人の女性であり、未成年のしかも中学生の需要は正直ほとんどない。

一応小柄な人向けのサイズもあるが、それでも木乃香には少し大きいようで事実上の特注扱いになるようだ。


「そのカタログにある服だったら注文すればパーティーに間に合わせるわよ」

数がない代わりにデザイナーの女性はカタログを見せており、木乃香のサイズで好きな服を特注してパーティーに間に合わせることを約束した。

カタログの服はほとんどがサイズが違えど店にはあるので、木乃香達は現物を見ながらドレスを選ぶことになる。


「タマモのサイズはないみたいだな。 さよちゃんもなんか欲しい服あったら選んでいいぞ」

一方横島は少し場違いな雰囲気だなと感じながらもタマモを抱えて店内の服を見ていくが、あいにくと子供服はないようで代わりという訳ではないが楽しそうに服を見ているさよに服を買っていいと声をかけていた。



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