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平和な日常~冬~

その後高級ブランド店を出た一行は、千鶴の案内で表通りから少し路地に入った場所にある古びた紳士服店に辿り着いていた。

その外見はこの店大丈夫なのかと心配になるほど活気がない店である。

まあ良く言えば落ち着いた雰囲気だとも言うが。


「ここはオーダーメードでスーツを作るテーラーの居る店なんです。 その筋では名の知れた方なんですよ」

ついさっきまでブランド品を見て騒いでいただけにテンションが急降下した少女達に千鶴が説明をするが、実はここに来たのは横島の要望からである。

ブランド物のような高級過ぎる物ではなく、かと言ってすぐに安物と分かるような物でもないスーツが欲しいとの難しい注文に千鶴が選んだ店であった。


「へ~、そんな風には見えないけど」

「知る人ぞ知る名店ですから。 父や雪広社長なども御用達です」

店構えは相当古く店自体がレンガ作りである。

別に疑う訳ではないが一体どんな店なのかと尋ねる友人達に、千鶴は知る人ぞ知る名店で実は紹介状などがないと断られることもあると告げた。


「いらっしゃいませ」

そのまま千鶴が店に入ると横島と少女達は後を続くように入っていくが、ちょっとでも騒がしいと怒られそうな雰囲気にみんな飲まれてしまう。

だが一行を出迎えたのは、そんな重苦しい雰囲気とは無縁なほど優しげな初老の男性だった。


「お久しぶりです。 北崎さん」

「大きくなられましたね。 那波さん」

ピンと張り詰めたような空気に少女達の視線が北崎と呼ばれた初老の男性に集まるが、彼は千鶴を見て少し懐かしそうに笑みを浮かべる。

実は千鶴がここに来たのは数年ぶりであり、昔は父がスーツを仕立てに来る時に何度も一緒に来たことがあったのだ。


「当店にこれほど若いお嬢さん方が一度に来たのは初めてかも知れませんね。 そちらにおかけになってお待ち下さい」

まるで住む世界が違うのかと感じるほど気品溢れる雰囲気の北崎に、誰もが言葉を発することもなく静かになっている。

まあ例外と言えば千鶴以外では木乃香とタマモはいつも通りだったが。

木乃香は元々箱入り娘のお嬢様なので、見た目以上に今回のような雰囲気に慣れてるらしい。

タマモに至っては相変わらず状況を理解してないだけだが。


(はぐれ魔法使いか?)

一方周りの少女達と同じく大人しい横島だが、別に少女達のように雰囲気に飲まれた訳ではない。

実は北崎と呼ばれた男性から一般人ではない気配を感じていたのだ。

横島の見立てでは東洋系の術士で実力は並程度、しかも随分と長い期間ほとんど術を使ってないことがわかっている。

危険性もなく取り立てて問題にするレベルではないし、麻帆良には彼のようなはぐれ魔法使いは結構多い。

ただ何か少し気になる人ではあったが。


「うわ~、お茶が美味しい!」

そんな横島を現実に引き戻したのは静かだった少女達の声だった。

雰囲気に飲まれていた少女達が出されたお茶を飲むと、その美味しさに驚きの声を上げたのだ。

横島の影響からか最近結構グルメになって来てる少女達は、思ってた以上に美味しいお茶に驚き素に戻ってしまったらしい。

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