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平和な日常~冬~

「元気そうで何よりです。 息子さん達は上手く再出発しましたよ」

宮脇食堂を離れた横島と夕映は、麻帆良市内にある病院を訪れていた。

そこは宮脇兄妹の母親が入院してる病院であり、横島は慣れた様子で宮脇兄妹の母親と会話をしている。


「本当にお世話になりました。 なんとお礼を言ったらいいのやら」

横島の姿を見ると申し訳なさそうにしつつも伸二達の再出発が成功したと聞くと、母親は本当に嬉しそうな表情を見せた。

さて何故横島達が母親の病院に来たかと言えば、事の始まりは夕映とのどかが宮脇食堂や近所の飲食店の情報を集めてる時だった。



「母親が気付いてる可能性が高い?」

最初に横島に母親の件を報告したのは夕映である。

夕映とのどかは大学部の美食系サークルの情報から始まり朝倉経由で報道部にも情報提供を頼み、最後には自分達で宮脇食堂の近所で情報を集めたようだが、その結果集まった情報は宮脇食堂の店だけでなく母親の人柄なんかの情報も集まっていたのだ。

情報によると母親には常連に友人が多く何人かはお見舞いにも行ってるとの情報があり、夕映達は母親が全てに気付いていると予測していた。


「母親がどこまで情報を掴んでるかは分かりませんが、早いうちに会うべきだと思うです。 会って安心させてあげた方がいいと思うです」

きっと母親は息子達の状況を心配しており店を休んで以降は今まで以上に心配してるかもしれないので、横島から会いに行くべきだと言い切った夕映達の決断に横島は素直に従っている。

実のところ母親が気付いてることは、横島も土偶羅に調べさせたのですでに知っていた。

普通に考えて息子の料理の腕前では無理なのは気付いてるはずだし、何故母親が何も言わないのか横島も気になったのだ。

ただ横島はそれでも母親に会いに行くという選択肢を夕映に言われるまで選ばなかった。

伸二のプライドもあるし第三者の横島が軽々しく会いに行くのは不自然だと判断したのだが、夕映達はそれでも会いに行くべきだと言い切っている。

これは男の横島と女の夕映達の視点や価値観の違いなのだろう。

最終的に木乃香達やさよまで会った方がいいと言うので、横島は比較的早い段階で会いに来ていたのだ。



「再開までこぎつけたのは、息子さん達の努力の結果ですよ。 それにここに来てから俺も随分といろんな人に助けられましたしね」

始めて会い来た時の事を思い出しながら、その時よりも確実に体調がよくなっている母親に横島は安堵した様子で一ヶ月の成果を報告していく。

母親は時折目に涙を浮かべながら聞いていたが、息子が苦労しながらも自力で再出発まで辿りついたことを本当に喜んでいた。


「俺達がここに来るのは今日が最後になると思います。 次に会う時は退院後に初対面としてですかね」

「私、うまくごまかせるかしら」

全て報告が終わると横島は母親と密かに会うのはこれが最後だと告げ、おそらく次は初対面として伸二達と一緒に会うだろうと告げると母親は嘘がバレないか心配なようで少し心配そうに笑っている。


「大丈夫っすよ。 母親は強いって言いますしね。 それじゃ退院をお待ちしてます」

一緒に来た夕映と共に母親と握手を交わした横島達は、これでよくやく今回の店の再建が一段落したとホッと一息つき病院を後にした。



この後母親が退院するのはおよそ二ヶ月後であり、正式に店に復帰するのは来春になるだろう。

宮脇兄妹はそれまで苦労を重ねながらも、横島達や多くの常連達に支えられながら店を無事に守ることになる。

流石に母親の時代のような繁盛には戻ることはないが、それでも周りの食堂や飲食店とはなんとか勝負が出来るレベルになっていた。


ちなみにこれは余談だが伸二はこの日以降正式に宮脇食堂を継ぎ料理の道を進むことになるが、彼はなぜか終生自身を料理人を名乗ることはなかった。

後年になり年齢と共に腕前が上達して一流と呼ばれるようになっても、自身が料理人と呼ばれることには抵抗したと言われる。

その理由として彼はそれが自身の原点であり目標だと語る、そんな奇妙な料理人がこの日生まれていた。

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