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平和な日常~秋~3

「コック服じゃあかんのか?」

さてその日の横島は相変わらず店の営業と伸二の指導で一日が終わっていたが、予期せぬ話が出たのは夕食の時であった。

話が来月のパーティーの話題に差し掛かった木乃香は、本格的なパーティーに着るような服がないので買おうと思ってると話ていたのだ。

その流れで木乃香が横島は大丈夫なのかと尋ねたのだが、どうやら横島はコック服で済ませるつもりだったらしく木乃香達を驚かせてしまう。


「俺はスイーツ作りに行くだけだしな。 パーティー自体に参加する訳じゃないからさ」

驚く木乃香達に今度は横島が不思議そうに理由を語るが、そもそもこの件について横島も木乃香達も些か認識の違いがあった。

元々木乃香は大会優勝者として正式に呼ばれているのでパーティー自体にも参加せねばならないが、横島はあくまでもサポートであり料理は作ってもパーティーに参加する気がない。

ただ木乃香達は当然横島もパーティーに一緒に参加してくれるものとばかり考えていたのだ。

パーティー自体はあやかも参加するらしいので全く一人ではないが、木乃香はこの手のパーティーに参加経験がなく横島が手伝うと言ったので安心しきっていた。

それが突然認識の違いがはっきりすると、木乃香の表情は明らかに不安そうなものに変わる。


「会場まで行くなら一緒に出てあげれば?」

「別にいいけど俺までパーティーに参加するとまた妙な噂が広がるぞ。 ただでさえ噂になってるんだからな」

滅多にない不安げな木乃香に明日菜達は横島に抗議の視線を向けると一緒に参加するように迫るが、横島としてはただでさえ恋人だと噂されてる自分が行くとややこしくなるだろうと気を使ったのだ。

まあこの辺りは実は木乃香達には言えない面倒な問題がいろいろあり、木乃香が魔法協会や麻帆良学園の実質的な後継者候補の最有力の一人なことが問題の根底にある。

現状で一般人の木乃香が誰と付き合っても第三者には関係ないはずなのだが、それでも学園の正式なパーティーで噂になるような男性と一緒に参加するのは少々面倒なことになる可能性があった。

現状で横島と木乃香は互いに友人だと認識しているが、困ったことに近衛家には最近でも詠春という婿入りの前例があった。

実際に神鳴流宗家の詠春と得体の知れない横島は一概に同一視は出来ないが、近右衛門や両親さえ認めればありえない訳ではないと周りが考える可能性がある。

仮に横島が木乃香に同伴する形で参加すれば、近右衛門が横島を認めたと周りが見る者が居ても不思議ではない。

実のところこの問題に関しては近右衛門が木乃香を後継者にしないとはっきり発表すればいいだけの問題なのだが、困ったことに近右衛門の後継者問題は東西の魔法協会の統合と行く末という更に難しい問題が絡むため正式に言えないのが現状だった。


「言いたい人には言わせておけば?」

「そうですね。 私もそう思うです」

ただそんな裏事情を知らない明日菜達は勝手な噂をしたい人間には好きにさせればいいと半ば開き直っており、横島のパーティー参加を押し切る形で決めてしまう。

まあ今まで散々横島と噂されてる木乃香達からすれば、今更噂の一つや二つ増えても気にもしないほど慣れただけなのだろうが。


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