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平和な日常~秋~3

さて夕映の誕生日が過ぎると、伸二の修業期間が当初の最短目標である二週間を過ぎていたが伸二の修業はまだ終わってなかった。


「どうするか決めましたか?」

この日横島はいつもと同じように店の営業をしつつ指導をしていたが、伸二に一つの決断を促す。

実は夕映の誕生日の数日前から横島達は伸二にとある提案をしていたのだ。


「本当に私でいいんですか?」

その提案に伸二は素直に驚き、数日過ぎた現在も自分でいいのだろうかと少し戸惑っていたがそれも当然のことだった。


「こっちとしてもテストケースとして販売する店が欲しかったんっすよ」

横島は相変わらずの軽い口調で説明をしていくが、実は現在伸二の店を麻帆良カレー提供店のテストケースにしようかとの話が持ち上がっているのだ。

そんなこの件の発案者は横島ではなく夕映とのどかであり、雪広グループや実行委員会にはすでに話を通して内諾を得ていた。

麻帆良カレーに関しては以前から提供店を増やす方向で話が進んでいたが、予算や人員はもちろんのこと細かな問題が残っている。

ただそれと同時に試験的に販売する店のことは以前から議題に上がっていたらしい。

利益と負担のバランスや飲食店の売り上げに与える影響などを考える上でも、一般飲食店でのテスト販売は必要だというのが関係者の意見であった。

加えてテスト販売とは言っても上手く行けばそれが今後の基準となるので、テスト販売する店は実行委員会側のアドバイスや方針に従ってくれる店を選びたいとの事情もある。

現在テスト販売する店を三軒ほど選考してる最中であり、夕映達は横島の店に来てからの伸二の様子からテストケースに最適だと交渉したらしい。

実際のところ現在実行委員会に打診がある提供希望の店の中には、正直あまり経営が上手く行ってない店もそれなりにあった。

言葉は悪いが伸二の店は、そんな店のテストにはうってつけだったという事情もある。


「契約は三ヶ月更新みたいですし、お母さんが退院して復帰した時は辞めても構わないようですから悪い話じゃないですよ」

予想以上の話になかなか決断出来ない伸二に横島は焦らせることなく説得していくが、実際のところ横島も夕映達も麻帆良カレーの件がどの程度店に影響を与えるか読みきれてなかった。

ただ元常連や今まで来たことがない客の目を引き付けるには、いいきっかけだとは考えている。

無論それに見合う実力が無ければ恥をかくだけだが、正直伸二には何ヶ月もかけて地道に客を呼び戻すような資金はないのだ。

それに麻帆良カレーを目玉にして客を呼び込み店を再建するならば、横島や夕映達がいろいろ協力しやすいとの理由もあった。

最終的に夕映は一度失った信頼を取り戻すには、それ相応のインパクトのある変化が必要だと考えたようである。


「よろしくお願いします」

この件に関して伸二は横島と夕映は元より妹の久美ともよく話し合ったが、他に方法がないのが実情だった。

加えて学園や雪広グループが主導する新しい試みに参加出来る意義は大きい。

母親に隠してやることに伸二は罪悪感も抱くが、それは今更なことでもあった。


ただ実は母親がすでに全部知っているという真実を宮脇兄妹は知らない。



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