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平和な日常~秋~3

それから数日が過ぎて夕映の誕生日の日になると、横島は朝から店の営業をしつつこの日の夕食の仕込みをしていた。

誕生日パーティーというほどではないが夕映が好きな物を中心に作っており、ビーフシチューなどは木乃香に話を聞いたその日から仕込みをしていていてドミグラスソースから作っている。


「なんとか間に合ったな」

実のところこのビーフシチューは時間が足りなかったので料理専門のハニワ兵に頼んで、夜中まで煮込んでいたりもしたがおかげでどうにか当日に間に合っていた。

夕映に内緒にしながら数日仕込みをするのは大変だったが、横島が日頃から日替わりメニューの仕込みを数日かけてすることはたまにあるのでなんとかごまかせている。


「これが完成した味ですか」

そんな完成したビーフシチューを味見してホッとした横島の隣では、伸二が同じく味見をしていたが完成した味に驚いていた。

ここ数日の横島は伸二に料理を教える傍らでずっと作っていたのだから、どんな完成品になるか伸二も楽しみにしていたらしい。

伸二自身も手伝っていたし、何より横島が一からビーフシチューを作ると聞き興味を持っていたのだ。


「これが作れればそれだけで本格的な店が出来るぞ。 まあこれを毎日同じ味に作るのは相当難しいけどな」

肉や野菜の旨味が凝縮したそのビーフシチューに驚く伸二に、横島はこれだけで店が開けると言うがその苦労は並大抵ではない。

食欲をそそるビーフシチューの香りに旨味の凝縮したスープと本当に溶けるほど柔らかく煮えてる肉は、専門店ですらそんじょそこらでは食べれる代物ではなかった。


「俺に料理を教えてくれた人の得意料理の一つだったんだよなあ」

横島の店に来て伸二はもうすぐ二週間になりその腕前をよく理解していたが、それでも今回改めて商売抜きにした横島の凄まじさを感じずにはいられない。

極論を言えばみそ汁や作り方やご飯の炊き方一つ取っても横島は違うが、やはり商売をしている以上は出来ないこともあると初めて知る。

正直本気でこのビーフシチューをメニュー化するならば明らかに人員が足りないし値段も安くは出来ないだろう。

ただこのビーフシチューは実は魔鈴が得意としていた料理の一つでもあり、魔法料理魔鈴の看板メニューでもあった。

無論今回横島が作ったのは魔法使用しないバージョンだが。

結果懐かしいその味に横島は思わず昔を思い出していた。


「頼りになる子ですよね」

「お世辞抜きにしてうちの店が繁盛したのは夕映ちゃん達のおかげですから。 あの子達がいなかったらここまで繁盛してませんよ」

そのまま昔を懐かしみつつ次々と料理の仕込みを続ける横島だが、伸二は横島がいかに夕映達を大切にしているかをシミジミと感じる。

実際横島の店の繁盛の裏には木乃香や夕映達の努力があるが、調理以外の夕映の細かな仕事ぶりは社会人の伸二すらも驚いていた。

加えて麻帆良カレーや納涼祭の実行委員会のメンバーとして、大人や大学生に混じってしっかりと話し合いに参加してるのも驚きの対象である。

横島が普通でないのは十分理解しているが、横島を取り巻く少女達も普通ではなかった。

アルバイトの学生の仕事じゃないなと伸二は常々思うが、一緒に店の立ち上げから協力してると聞くと何故か納得してしまう。

そんないい大人といい仕事と出会った夕映が伸二は少し羨ましかった。

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