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平和な日常~秋~3

夕食と後片付けが終わると木乃香達は一緒に寮に帰っていくが、時間が時間だけに日頃から基本的には複数で一緒に帰るようにしている。

麻帆良がいくら治安がいいと言っても若い女性が夜に独り歩きするのはいいことではない。

まあ実際には店から寮は近いのでさほど気にしてる訳ではないのだが。


「静かになりましたね」

ついさっきまで賑やかだったことが嘘のように静かになった店内では、有線放送の音楽が邪魔にならない程度の音量で流れていた。

高畑は嵐が過ぎ去った後のような静けさの店内で、少しだけホッと一息つく。

教師という立場上、学校外でも教師は生徒の前だとあまり気を抜くことは出来ないようだった。

まあ個人差はあるし個々の考え方の違いなどもあるので一概には言えないが、少女達の前では話せない話は結構多い。

元気で笑顔の生徒達は教師として見ていて嬉しいものだが、同時に教師としての立場を忘れられないことも確かなのだろう。

まあ明石やガンドルフィーニは直接の生徒ではないのでまた違うのだろうが。


「静かと言えば、あちらは随分静かですね。 あの連中が見つかったのに……」

突然の静けさにホッとしたような寂しいような複雑な心境の三人だったが、明石は静かと言う言葉にふと思い出したように話を始める。


「立場が違えば見解も変わるんですよ。 少なくとも子供が信じるような絶対悪だと本気で信じてるのは向こうでも多くないですから」

横島は厨房に入ったきり出て来ないが、一応聞かれてもいいように明石も高畑も特定の単語は言わないまま話は進んでいく。

まあ高畑達も本当にやばい話はするつもりがないので仮に横島に聞かれても問題はないとも思っているが、ただ基本的に魔法協会に属さぬ魔法関係者は扱いが難しいので気をつけているらしい。

特定の単語さえでなければもし内容を理解しても知らないと言えるし、高畑達も言ったと思わないで済む。

これに関しては横島云々はあまり関係なく、魔法協会に属さぬ魔法関係者には基本的に裏には触れない暗黙の了解がある故の対応である。


「それはそうだろうけど、連中の危険性は君が一番知ってるだろう?」

明石が語ったのが何はもうお分かりだろうが、魔法世界の勢力が不思議なほど静かで動かないことだ。

かつて世界を混乱に陥れた組織が今また活動を始めたとの情報に魔法世界は表面的にはとても静かで反応がない。

恐らく裏では相当な動きがあるとは思っているが、明石もガンドルフィーニも諜報部に属してる訳ではないので実際はどうなのかよく知らないようである。

そんな中ガンドルフィーニは、高畑にとっては長年の敵である相手に対して高畑があまりに冷静なことが少し不思議だったようだ。


「確かに彼らの考えは僕らからすれば危険ではありましたが、彼らは彼らなりに理想があって戦っていた。 正直共感する部分が全くない訳じゃないですから」

興味深げに聞く明石とガンドルフィーニだったが、彼らが話してる組織である完全なる世界の印象は一般的なものと高畑やナギ達の印象は全く違うものだった。

少なくともナギは私怨で戦っていた訳ではなく、一人の少女と世界を守ろうとしただけなのである。

完全なる世界も赤き翼も手段や結果は違えど同じように魔法世界の幸せな未来を願っていたのだから、高畑は彼らに一種の共感めいた感情も僅かに抱えていた。



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