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平和な日常~秋~3

「そろそろいいぞ」

この日も大勢での夕食になった横島達だが、コトコトと煮える土鍋の蓋を開けると白い湯気と共にほのかな出汁の香りが辺りに広がる。

今回の湯豆腐は伸二の修業の一貫なので出汁を取ることから伸二に全てやらせていたが、料理の出来自体はよかった。


「このタレがまた美味しいのよね」

みんなお腹が空いていたのか鍋の中の豆腐や野菜は次々とそれぞれの取り皿に消えていくが、横島の湯豆腐はタレが自家製である。

お馴染みのポン酢や胡麻ダレも手作りであり、この日は新しく塩ポン酢なんてのまで作っていた。

少し前に料理雑誌で見掛けたので始めて作ってみた物である。

少女達は好みに応じて薬味とタレを好きなように選んでいくが、横島の料理はこの手のタレやドレッシングがまた評判がいい。

まあ普通に本格的な料理屋やレストランに行けば当然として同じように手作りなのだが、そんな本格的な店になかなか行かない少女達には評判がよかった。


「いらっしゃい、何にします」

その後も賑やかな夕食が進む中、珍しい人達が一緒に店を訪れる。


「とりあえずビールを頼むよ」

やって来たのは高畑・ガンドルフィーニ・明石の三人だった。

高畑と明石は何度か店に来たことあるが、ガンドルフィーニは初めてでそもそも横島と会うのも麻帆良祭以来の二回目になる。

店内で店主の横島が普通に少女達と一緒に夕食を食べていたことにガンドルフィーニは驚いていたが、高畑と明石は横島をそれなりに知っており驚くほどではないようだ。

そのまま高畑と明石は少女達にも軽く声をかけると、横島達と少し離れた席に座一息つく。


「これつまみにどうぞ。 ウチらからのサービスです」

彼らの注文を聞き横島はすぐに厨房にビールに行くが、木乃香は湯豆腐を小皿に一人分ずつ取り分けると高畑達にサービスだと言い振る舞う。

本当は木乃香は一緒に夕食をと誘おうとしたのだろうが、あまり知らないガンドルフィーニが居ることから遠慮したらしい。


「いいのかい?」

「このくらい気にせんでええよ。 ウチらうるさいからお詫びや」

相手は生徒ということもあり少し遠慮する高畑だったが、木乃香は手慣れた手つきで三人に配ると自分の食事に戻っていく。


「噂には聞いていたけど……、本当に変わった店だね」

そんな木乃香の姿にガンドルフィーニは目を丸くして、不思議そうに木乃香達の方や店内を見渡していた。

建物や店内の雰囲気は古い洋食屋かレストランに見えるが店の種類は喫茶店だし、食べてる物は和食屋か居酒屋にも見える。

というか出汁や野菜が煮える湯豆腐のいい匂いが彼らのところまで届いており、彼らも食べたくなっていたのだが。

何か全く統一感がないその様子に初めて来る客は戸惑うことも少なくない。

ましてガンドルフィーニは近右衛門の孫娘である木乃香を直接の話したことは無くとも当然知っており、その手慣れた接客にも普通に驚いている。

まあ横島の噂は良くも悪くも魔法関係者では有名だったが。

何と言うかまるで不思議の世界にでも迷い込んだのかと一瞬考えたガンドルフィーニだった。



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