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平和な日常~秋~3

同じ頃中等部の職員室では、高畑がこの日行われた小テストの束を見ていた。


「明日菜君、本当に安定して来たな」

時期的に定期テストの合間なだけに気を引き締めさせる意味もあって小テストを行ったのだが、明日菜の成績はやはり安定し始めている。

一年の時から居残り組でよく補習をして教えていただけに、高畑は明日菜の成績が上がったことが素直に嬉しかった。


(師匠……、貴方に今の明日菜君を見せてやりたかった)

二年になって明日菜は本当に変わったとしみじみと思う高畑は、明日菜を逃がす為に命を賭けた師に今の明日菜を見せてやりたいと思う。

元々明日菜は元気で毎日幸せそうだったが、今年に入ってからは成績と共に精神的な成長を始めていたのを高畑は気付いている。

自分は頭が悪くてダメだと内心諦めもあった明日菜が、確実に実力を付けて自信を持ち始めているのだ。

その影響はまだ大きく出ては居ないが、いずれ花咲く日が来ると信じている。


(僕がもう少しきちんと明日菜君を見ていたら……)

そのまま明日菜とかつての仲間を思う高畑だが、最近生活のリズムが変わったせいかいろいろ見えてくるモノがあった。

フェイト発見の余波でメガロメセンブリア絡みである悠久の風の活動に行かない高畑は、以前のような慌ただしい毎日ではなくなっている。

一般教師や生徒の中には少し不思議そうな者も居るが、ゆっくりと周りと交流する機会が少なかった高畑はこの機会に一般教師や生徒と交流する時間を増やしていた。

明日菜の微妙な変化に気付けたのは、そんな余裕があったからである。

失った仲間達の想いを継ごうとがむしゃらに努力して走り続けた高畑だが、ふと立ち止まって見ると見える世界は全くと言っていいほど違っていた。


(僕はこの街の住人なんだね)

無論仲間達の意思を継ぎたいと願う気持ちに変わりはないが、同時に今の自分はこの街の人間なのだと改めて気付いている。

実は高畑には悠久の風やクルトの一派などから、力を貸して欲しいとの連絡も入っているがそれに答えてない。

フェイトが発見された影響で高畑への仕事の依頼は増えたのだが、高畑自身もフェイトの一件がメガロの元老院やクルトの謀略ではないかとの疑問が消えてなかった。

正直困ってる人達を助けに行きたいと考える気持ちは変わらないが、一方でそれは本来はナギ達のように組織や国に属さずにやるべきなんだろうとも考えている。

メガロが秘密結社完全なる世界を悪と断じて自分達に都合がいい正義を振りかざして、好き勝手にしてるのは高畑も当然知っているのだ。

全ては魔法世界の人々の為と割り切って協力していたが、それが今は本当に正しかったのか疑問を感じていた。

高畑から師や仲間を奪ったのは完全なる世界だが、見方を変えれば魔法世界の為政者達の身勝手さに殺されたとも思える。

救ったはずの人々から裏切られた過去を高畑は忘れてなかった。


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