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平和な日常~秋~3

十一月も中頃に入ると、麻帆良の街ではクリスマスのイルミネーションが少しずつ見られるようになっていた。

洋菓子店や雑貨屋などクリスマス関連の商品を扱う店は書き入れ時なので、当然気合いが入っているようだ。


「ねえマスター、なんでクリスマスケーキ作らないの?」

「正直、人手が足りないんだよ。 どう考えても注文数と販売数が釣り合わないんだわ」

この頃横島の店ではクリスマスケーキの販売はしないというお詫びの貼紙が店内に貼られている。

木乃香達なども結構学校で聞かれるらしく、いい加減クリスマスケーキをどうするのか考えたのだが今回は単純な人手不足で販売出来なかった。

現状でも横島は喫茶店の客とスイーツの持ち帰りでそんなに暇じゃない。

仮に横島の店がクリスマスケーキを販売するならば、クリスマスの数日前から店を閉めて作るとかしない限りは満足な販売数の確保は無理だった。

仮に注文が二十個~三十個くらいなら受けてもいいのだろうが、体育祭の影響もあり注文を取れば三桁を越えるだろうことは明らかなのである。

注文を限定して限られた人にだけ販売するという考えもなくはないが、中途半端に不公平感が出たら後々が大変だろうと販売自体を控えることにしていた。

加えて横島の店の主力は木乃香達であり、注文を受けたら彼女達はクリスマス期間を仕事で埋めることになる。

木乃香達自身はクリスマスに仕事をすることにそこまで否定的ではなかったが、横島としては流石にクリスマスまで仕事をさせられなかった。

時期的に実家に帰省してるかもしれないし、もし麻帆良に居たとしても中学生の年からクリスマスを仕事で埋めるのはいいことではない。

横島自身が高校時代には人並みの学生生活がなかったこともあり、木乃香達の状況を意外と気にしている。

そんな総合的な判断から、横島は今年のクリスマスケーキの販売はやらないことに決めていた。



「そういえば、彼女達も実家に帰るかもしれないんだもんね」

クリスマスケーキの販売に関して貼紙をしてから横島は何故かとよく聞かれるのだが、現状でも横島の店が木乃香達抜きには回らないのは常連ならば誰でも知っている。

特に古い常連になればなるほど残念そうだったが、横島一人では限界があるのは考えなくてもわかるのだ。

日頃は横島よりも働いてるだけに、木乃香達が居ないと無理だとはっきり言い切る横島に常連の少女達は仕方ないなと笑って許すしかなかった。


「ぶっちゃけクリスマスケーキの予約販売って、大手の企業だと何ヶ月も前からスポンジ焼いて冷凍したりしてるんだよ。 普通に作ってたら注文数捌けないからな。 うちはそんな設備はないし、実際に味も落ちるからしたくもないしさ」

その後一度は笑って許してくれたがそれでもなお残念そうな少女達に、横島はクリスマスケーキ販売の裏側を暴露するがほとんどの少女達は驚きを隠せないようであった。

結局横島や木乃香達はこれからしばらくは、クリスマスケーキを販売しない説明に追われることになる。



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