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平和な日常~秋~3

西の空がオレンジ色に染まる頃、少女達の半数は心地好い畳の上で毛布をかけられて昼寝をしている。

木乃香など料理が好きな者はおばあちゃんに郷土料理を教わっており、横島と教師陣と伸二は数名の少女達と縁側でお茶にしていた。


「ふるさとってこんな感じなんですね」

たわいもない話をして時を過ごしていた一同だったが、ふとした瞬間に明日菜が発した言葉に会話が途切れる。

幼い頃の記憶がなくふるさとがない明日菜にとって、小学生の頃に田舎へ帰省した話などを聞くと素直に羨ましかった。

近右衛門や清十郎や高畑など多くの者に支えられていたので寂しかった訳ではないが、祖父母の話をする友人達が羨ましくなかったと言えば嘘になる。


「イメージで言えばそうだろうな。 でも感覚的には明日菜ちゃんが麻帆良に感じてるモノがふるさとに近いと思うな」

家族もおらず帰る故郷もない明日菜のふとした呟きに誰もが何か言葉をかけようと思うが、真っ先に反応したのは横島だった。

今日この日にふるさとを感じたのは明日菜だけではない。

2-Aの少女達は元より刀子や横島ですらふるさとを感じている。

少し切なくなるようなふるさとへの気持ちは、人類が共通する感覚なのかもしれない。


「麻帆良ですか?」

「ああ、ふるさとって帰るべき場所だからな。 誰もが田舎に帰るべき場所がある訳じゃないしさ」

言葉にこそ出さないが、明日菜も自分の両親や祖父母はどんな人だったのだろうと考える時がある。

高畑は明日菜に両親の話はしたことがないし、明日菜もあえて聞いたことはない。

まだ十代の少女が本当の両親や家族を求める気持ちがあるのは当然だろう。

田舎の祖父母の家に行くということに一種の憧れがあった明日菜だが、横島に明日菜のふるさとは麻帆良だと言われると少し驚いた表情に変わる。


「わたしは?」

「タマモもふるさとは麻帆良になるな。 明日菜ちゃんと一緒だ」

「わーい、いっしょだね!」

周りの教師陣や少女達が口を挟める空気ではないので静かに見守る中、驚く明日菜を更に驚かせたのは嬉しそうに抱き着くタマモであった。

自分のふるさとは麻帆良であり、同じく麻帆良がふるさとの少女がいる。

そんな当たり前の事実に明日菜は、言葉に出来ない温かさを感じずにはいられなかった。


「そうね、一緒だね」

ふるさとの意味をあまり理解してないだろうタマモに明日菜は思わず笑ってしまいそうになるが、同時に帰るべき場所が一緒の少女の存在を本当に嬉しく思う。

そしてそのままタマモを抱き抱え笑顔を見せる明日菜に、高畑や周囲の者達はホッとした表情を見せる。

高畑やクラスメートの少女はもちろんのこと、刀子やシャークティも心配していたのだ。

ありふれた励ましの言葉ではなく、心の底から明日菜を元気づけたタマモの存在に心底ホッとしていた。


(帰るべき場所か…… 俺も麻帆良になるのかな)

一方横島は自分で言った言葉に少し感慨深いモノを感じている。

横島も明日菜を元気づけようととっさに出た言葉だったが、それは横島自身にも当て嵌まる言葉なのだ。

麻帆良の街が自分にとって第二のふるさとになるのかと思うと、何とも言えない不思議な気持ちになっていた。



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