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平和な日常~秋~3

一方の伸二は相変わらず少女達のテンションには着いていけないようだったが、見てる分にはそれなりに慣れて来たようだった。

高畑や明石が話し掛けてくれていたし、木乃香や夕映も彼を気にしていたせいもあるが。


「畑に入るなんていつ以来だろう」

柔らかな畑の土を踏み締める伸二は植物の青々とした匂いを感じつつ、久しぶりのゆっくりとした時間を過ごしている。

母親の入院以来日中ゆっくり休む暇がないほど毎日働きはしたが、残念ながらその成果は出てるとは言えない状況だった。

誰も伸二を追求しないが料理をナメていたのだろうと言われればその通りなのだと、この一週間で嫌というほど感じている。


(酔狂な人だけど……)

現在の伸二は横島を物好きで酔狂な人だとの印象が強い。

仕事なのか趣味なのか端から見れば迷うようなのが日頃の横島だが、提供する料理だけはきちんとしている。

夕方なんかはお客さんと一緒に騒いで遊び出す店主の姿に正直ただただ驚くしかなかったが、結果的に抑えるべきポイントはしっかり抑えていた。

まあ実際には木乃香達が学生のアルバイトには見えないほど自分で考えて働いているから出来ることだが。

冷静に考えると不思議な店だと感じることは一週間を過ぎた現在も多い。


「宮脇さん大丈夫ですか? 横島さんもみんなも悪気はないんですよ」

「大丈夫ですよ。 流石に若い子と一緒に騒げる年齢じゃないですけどね」

広い畑を見ながら少し考え込んでいた伸二だが、ふと気付くと近くに居た夕映・のどか・ハルナの三人が心配そうな表情で話し掛けていた。

視線をずらすと横島や教師陣や妹の久美は、少女達に囲まれて芋掘りを楽しんでいる。

少し周りから距離を置いていた伸二を夕映達は心配していたようだ。


「僭越ながら横島さんも最初から恵まれていた訳ではありませんよ。 詳しい理由は知りませんが、本人は天涯孤独だと言ってましたし麻帆良に来るまでは一人で世界を旅していたようですから」

いろいろな意味で少し羨ましいようなそんな視線を横島に向けていた伸二だが、夕映はそんな伸二を見透かしたように横島の過去を語る。

伸二は横島に感謝しているし有り難いと思ってはいたが、どこかで住む世界が違う人だとも感じていた。

それは決して間違った認識ではないが、夕映はそれだけではない横島の努力や気遣いを身近で見て来ている。

心のどこかで横島は特別だと簡単に割り切って考えている伸二に、夕映はそんな単純ではないとやんわりと釘を刺す。


「天涯孤独なんですか……」

「私達も詳しくは知りません。 ただあの年であれほど出来るには訳があるはずだと思うのです」

横島の過去には秘密があると感じているのは、身近な者達の共通認識だった。

無論秘密のレベルや内容は感じる人により様々だが、普通の人にはない何かを感じているのは確かだろう。


「生意気を言うようで申し訳ありませんが、時にはもう少し肩の力を抜いてはどうです? 私も人のことは言えませんが、一つに熱中し過ぎると周りが見えなくなる時があるものです」

予期せぬ横島の過去に驚く伸二に、夕映は畳み掛けるようにもう少し肩の力を抜くべきだと告げる。

それは夕映もまた一つのことに熱中しやすいタイプ故に感じるのだろう。

今のままでは伸二はいずれ行き詰まり疲れてしまうと。

夕映自身も横島が何を思って伸二を誘ったかは知らないが、横島と比較するとどうしても視野の狭さというか追い詰められた感じの伸二が気になるらしい。


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