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平和な日常~秋~3

バスの中はやはり女子中学生のテンションそのものだった。

宮脇兄妹は妹で女子高生の久美はともかく、兄の伸二はどうしていいか分からない様子である。

まあ明石と高畑などが話し相手になっていたのでまだマシだったが。

ただ伸二にとって気晴らしになっているかは、はっきり言えば微妙だった。



「あれまあ、随分と若い団体さんだね」

そんな一同が到着したのは、麻帆良から三十分ほど離れた場所にあるごく普通の農家である。

観光目的の農園などでもない普通の農家に流石の2-Aの少女達も驚き静まり返るが、そんな一同を出迎えたのは八十を過ぎてるようなおばあちゃんだった。


「いや~、予定よりちょっと人数多くなっちゃってさ」

「別にええよ。 年寄りの暇つぶしにはちょうどいい」

人の良さそうなそのおばあちゃんに横島は予定より人数が多くなったと申し訳なさそうに声をかけるが、おばあちゃんはあまり気にした様子もなく笑っている。

実はこの人は麻帆良の朝市に毎朝野菜を売りに来てる、普通の農家のおばあちゃんだった。

横島が一番野菜を買うのがこのおばあちゃんからであり、畑を見学したいと頼んだら快諾してくれたらしい。


「すいません、大人数で押しかけてしまって」

そんな人の良さそうなおばあちゃんに安心したのか気の早い少女達は元気に畑の方に走っていくが、固まったというか申し訳なさげに恐縮していたのは大人組である。

どうやら大半の人は前回の話から観光農園に行くと思ってたようなのだ。

まあ中学生ならまだいいかもしれないが、大人組は厚かましいのではと慌てたのも無理はないだろう。


「ここの野菜美味いんだ。 一味違うんだよな」

その後恐縮する大人組にもおばあちゃんは笑顔で答えると、一同は一面に広がる野菜畑に移動していた。

季節柄もあってかビニールハウスも見えるが、一面に広がる畑は関東近郊にしては広い方である。

このおばあちゃんは人を雇って広い畑で野菜を作ってるらしいが、麻帆良の朝市の他にも地元の地場産品の店や都内のレストランなんかにも卸してるようだ。


「みなさん、畑を荒らしてはダメですよ」

基本的におばあちゃんはあまり細かいことを言うことはなく、少女達が畑に入るのも笑顔で見守っていた。

教師陣はそんな少女達に畑を荒らさないようにと慌てて注意すると、元気な声で返事が返ってくるがそれでもやはり不安そうである。


「ええから、ええから。 昔はみんな自由に遊んだもんだからね」

広い畑に実るたくさんの野菜に少女達は興味津々な様子だったが、おばあちゃんはそれを注意して止めに入る教師陣を逆に止めていた。

無論完全に放置する訳でもなく最低限の注意はするが、あえて好きにさせてる印象が強い。


「畑に入って来る子供なんて最近は珍しいからね。 いいことだよ」

相手は制御しないと暴走しそうな2-Aの少女達なので教師陣は不安が残るらしいが、おばあちゃんは子供は元気なくらいがちょうどいいと笑っている。

少し懐かしそうに少女達を見つめるおばあちゃんに、教師陣は優しい笑顔の中に柔らかな強さを感じていた。



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