それから数日が過ぎて伸二が横島の店に来てから一週間が過ぎた頃、横島は木乃香達と妹の久美と伸二が作った料理を試食していた。

予定では伸二の修業期間は二週間から一ヶ月なので、そろそろ一定の成果が欲しい頃なのだが。


「美味しい。　あのお兄ちゃんが一週間でここまで変わるなんてね」

伸二の作った料理を試食する一同だが、最初に反応したのは妹の久美であり素直に兄の成長に驚いている。

正直予想以上に成長したと久美は関してるようだが、横島達の表情はあまり芳しくはない。


「一応最低限の基礎は覚えて来たしな～」

この一週間で伸二は成長したが、それは最低限の料理のイロハを覚え始めたに過ぎなかった。

確かに以前に比べると美味しく作れるようにはなって来たが、まだ離れた客を呼び戻すほどではなければ新しい客を呼ぶほどでもない。

はっきり言えば教えたことを覚えるので精一杯であり、それをいかに間違えないで料理するかと努力してる段階なので技術的なレベルはさほど変化してないのである。

ただこればっかりは横島にもどうしようもなく、術や霊能なんかの特別な方法を使わない限りは劇的な成長なんて出来るはずがない。

まあ元々当初の予定でも横島は最低限の知識や技術を教えるのに二週間から一ヶ月と言ったのであり、そこから先は伸二が自分で店を営業しながら努力を重ねるしかなかった。


「明日の日曜は久しぶりに店休んで出掛けるか」

現状で伸二は十分努力をしてるし、というか実は努力をしなければこの一週間で見切りをつけることも横島は密かに考えていた。

常連の女子高生への義理もあるので一週間は親身に教えたが、流石にやる気や覚悟が足りなければこれ以上は無駄なのだ。

ただ現状で伸二は十分努力をしており、ここから先を教えるには少し手法を変えねばならないかと考える。


「出かけるんですか！？」

「ああ、牧場と農家に行こうかと思ってる。　タマモが牧場に行きたがってたし、宮脇さんにも生産地を見て欲しいからな」

横島の出掛けるという言葉に、さよとタマモは一瞬で嬉しそうな表情に変わった。

何かと忙しく麻帆良を出た機会が少ないだけに、二人は麻帆良から出ることを楽しみにしていたらしい。

それにタマモは木乃香達の遠足の話を聞いてから、いつか牧場に行きたいと言っていたのだ。


「それ、ええな」

「確かに気晴らしは必要です」

一方突然の横島の提案に伸二は少々困惑しているが、木乃香達は賛成なようである。

特に木乃香や夕映は伸二が根を詰めすぎなのを感じており、このままではダメだと思っていたらしい。

無論伸二の努力は彼女達も認めるが、必ずしも現状では努力が結果に結び付いてはいなかった。

まあこの結果は様々な要因が重なったとも言えるし、普通に考えれば二週間やそこらでお客さんを相手にするレベルの料理を覚えるのが無茶なのは十分承知しているが。

ただ現状では中途半端に終わる可能性が高いのは、木乃香達も気付いている。

流石に料理を楽しめるようにとまでは言わないが、もう少し広い視野と心構えが欲しいと考えるのは彼女達が横島に影響されたからかもしれない。