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嵐を呼ぶかもしれない男

「少し疲れてませんか?」

「まあね。 人の下で働くなんて始めてだし、そもそも公務員なんて私に一番向かないからね。」

令子のオカルトGメン出向から一週間が過ぎていた。

仕事の合間に事務所の様子を見に来た令子であるが流石に一週間もすると疲労とストレスが原因で少し表情が冴えなくなり始めていて、小竜姫がヒーリングでせめて身体の疲労くらいはと癒すも不安そうな表情を見せる。

ただ本来の歴史に比べるとまだ疲労もストレスも圧倒的に少ない。

理由は幾つもあるのだろうがここの令子にとって小竜姫が本音を話して愚痴れる存在になりつつあることも無関係ではないだろう。


「向き不向きは誰にでもありますからね。」

横島という存在を失った令子であるがそれはプラスの面もあればマイナスの面もある。

二人の関係は一言では言い表せないものがあるのは今更であるが、そこに小竜姫の存在を鑑みるとほぼプラスマイナスゼロくらいになっているのが実情だった。

心の奥底では僅かではあるのだろうが横島を精神的に求めていた部分もあったのだろうが、小竜姫の未来と違い失って傷となるほどではないし本人ですら失った喪失感に気付いてない。

そんな状況に現れた西条に対して令子は無意識ながら横島の代わりという訳ではないが精神的に求めてる節が僅かにある。


「西条さんともっと腹を割って話してみては?」

「……それが出来れば苦労がないのよね。」

一緒に仕事をするようになって一週間が過ぎているし、この期間に仕事終わりに食事やお酒を飲みに行ったこともある令子と西条だが令子は未だ西条に本音をぶつけられないでいた。


「その……、小竜姫様は怖くなかったの? 神族と人間の恋愛なんて。」

「怖いですよ。 今でも。 私達はいつ一緒に居られなくなるか分かりませんから。 でもね美神さん。 どうせ後悔するならやるだけやって後悔した方がよくありません? まあこれ昔ある人が言ってた言葉なんですけどね。」

令子が西条に本音をぶつけられない理由もまた複雑なのだろうが、令子はふと小竜姫に聞きたくても聞けなかった質問を投げ掛けてしまうがその答えに彼女は目を見開き驚いてしまう。

楽しげで端からは幸せの絶頂とも見える小竜姫があっさりと怖いと口にしたことも驚きであるし、いつ一緒に居られなくなるか分からないと言ったこともまた驚きだった。


「神族に与えられた時間は果てしなく長いんです。 だからこそ私は何もせぬまま永遠とも感じる時を後悔し続けるなんてしたくありませんから。 例え神の地位を追われることになっても。」

「小竜姫さま……。」

まだ令子には未来のことは打ち明けられないが小竜姫は今話せる範囲での本音を可能な限り令子に話していた。

決して一時の気の迷いでも気まぐれでもない小竜姫の横島への想いとその覚悟を。


「美神さんにはまだ時間も選択肢もいくらでもありますよ。 悩めることもまた一つの幸せですよ。」

そして令子は小竜姫の女としての覚悟と横島への想いの強さに衝撃を感じていたが、逆に言えばそれだけの覚悟がないと神と人の壁は越えられないのだろうと悟る。

そんな小竜姫と自分の立場を自然と比べてしまう令子に小竜姫は悩むことの出来る幸せもあると語り、令子に現状や西条との関係を改めて考えさせることになる。

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