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平和な日常~秋~2

そしてその日の夜は、店に高畑が京都の土産を持って来ていた。

高畑が居ない間のテストなどで横島に迷惑をかけたとの気持ちもあるのだろう。


「君とは一度ゆっくり飲みたいと思ってたんだけど、なかなか忙しくてね」

客も途絶え静かな店内で高畑に勧められるまま横島も酒を飲み始めるが、高畑はそんな横島を静かに見ている。

特に警戒しているとか疑ってるような悪い雰囲気ではないが、何か気になることがあるような感じだ。


「京都では木乃香君の父である詠春さんともゆっくり話せたんだけど、詠春さんは君と一緒に居ると何故か昔を思い出してしまうと笑っていたよ」

酒を飲みながらも言葉を選んで話を続ける高畑だが、気になる何かの原因は詠春のようである。

高畑が先日まで近右衛門と一緒に京都に行っていたのは前にも説明したが、高畑は向こうで詠春とゆっくり話す機会があったらしい。

その中の一つに横島の話題があったようだった。


「心配っすよね、中学生の子供が怪しい男の店でバイトするんですから」

「ああ、本当に心配だったみたいだね。 でも会ったら少し安心したとも言っていたよ」

話が何故か詠春のことになると横島は少し申し訳なさそうな表情をする。

横島自身は自分が詠春からすると怪し過ぎる人物なのは十二分に理解している。

総合的には危険ではないだろうと見られるように気をつけてはいたが、それでも怪しいことには変わりはない。

正直よく木乃香の好きにさせて見守っていられるなと不思議なくらいだった。


「でもね、僕は僅か数ヶ月でここまで人々の心に入り込む君が少し怖い。 個人的に僕には出来ない妬みもあるかもしれないけどね」

穏やかに続く話は次第に裏と表の狭間に差し掛かっていく。

近右衛門が受け入れ詠春までもが認めた横島だが、高畑はそれ故に怖いとも感じるらしい。

少しおどけたように語ってはいるが、それは偽らざる本心だろう。


「僕なんかが言えることじゃないんだろうけど、突然居なくなるようなことだけは止めてくれよ。 もし君がどうしようもないほど困っても、この街には手を貸してくれる人は大勢いる。 出来れば残される者の気持ちを考えることを忘れないで欲しい」

グラスの中の酒を飲み干すと高畑は言葉を選びつつも本題とも言えることを話し始めた。

それは高畑なりに横島を見て感じたことの結果なのだろう。

僅か数ヶ月で麻帆良に馴染んだ横島だが、何処かで溶け込みきれてない何かを高畑は感じていたようである。

日々成長する明日菜や木乃香達を見守っている高畑は、思わず彼女達に過去の自分を重ね合わせていたのかもしれない。


「ありがとうございます。 肝に命じておきますよ」

結局横島は高畑の言葉を素直に受け入れた。

それは横島自身も嫌というほど理解してることであったが、高畑がわざわざ言葉に出した意味を理解すれば素直に受け入れるのが一番だろうと思う。


「あれを計算じゃなく本心から言えるのはスゲーよ。 本物の英雄の器ってやつかな」

その後高畑はしばらく飲んで帰ったが、横島は何の計算や打算もなく本心からあそこまで言った高畑はやはり英雄なのだとシミジミ感じる。

個人的に高畑には明日菜の件などで思うところもあるが、その真っ直ぐな志しと心の強さは横島にはない物だった。



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