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平和な日常~秋~2

通常五分程度で終わるはずの集計が、なぜか十五分ほど掛かってしまい会場は騒然とする。


「お待たせしました。 それでは優勝者を発表したいと思います! 中華部門の優勝者は超鈴音と四葉五月さんです! そしてスイーツ部門の優勝者は新堂美咲さんと近衛木乃香さんです!」

静まり返った会場ではいよいよ優勝者が発表されて優勝者の名前に会場は一瞬で歓声が上がるが、優勝者が二名ずつ呼ばれたことで歓声はすぐに戸惑うような声に変わり意味が分からないと首を傾げる者ばかりだ。


「えーと、説明しますので静かにして下さい。 中華部門の点数ですが、超さんと四葉さんが九十四点同点優勝になります。 スイーツ部門の新堂さんと近衛さんも九十六点で同点優勝となりました。 大会規定には同点時には同点優勝とすると定められております」

会場中の観客が困惑する中、司会の生徒が説明を始める。

一言で言えば二部門ともに同点優勝なのだ。

観客達はあまりに驚きの結果に素直に喜べない者も居たりするが、料理大会の決勝に延長はない。

そもそも同点優勝自体過去に前例がなく、二部門同時に同点優勝も当然史上初のことである。

実は大会側もあまりに驚きの結果に同点時の対応など誰も知らなく、慌てて大会規約を確認していたのだ。


「同点優勝なんてあったんだ……」

「二つとも同点優勝になるなんて、天文学的な数字になるんじゃない?」

本来は優勝者は発表と同時に盛り上がるはずの会場が、微妙な空気なのも初めてのことである。

ほとんどの観客は同点になるなど思いもしなかったし、一部にはまさか話題作りのヤラセかと邪推する者も居た。

それだけ信じられない結果になったのだが、実は今回特例として優勝者の四名には結果に異議があるか、発表前に急遽順位を告げて確認を取っていた。

超と五月はともかく新堂は、予選からの総合成績を考えると同点優勝に納得しなくても不思議ではない。

異議があれば特別に優勝決定戦も考慮されていたが、木乃香はもちろん超達や新堂も異議を申し立てることはなかった。


「夢見たいや。 でも先輩はホンマに同点でよかったんですか?」

「構わないわ。 真剣勝負にはもう一回なんてないのよ」

大会側から優勝トロフィーを新堂と二人で受けとった木乃香は、ふと新堂に本当に同点優勝でよかったのか尋ねる。

正直新堂との実力差は木乃香が一番感じていた。

予選からの圧倒的な実力を考えると本当に納得したのか気になるし、何よりもう一回戦えば確実に勝てるはずなのだ。

ただ彼女はそんな木乃香の問い掛けにクスっと笑顔を見せて、真剣勝負にもう一回はないと言い切る。


「今回、貴女のおかげでいい勉強をさせて貰ったわ。 私ももっと視野を広げる必要があるみたい」

手を伸ばせば簡単に得られるはずの単独優勝の栄誉に全く興味がない様子の新堂は、木乃香に対し勉強になったと告げ満足そうだった。

そう新堂は目先の栄誉よりも、すでに遥か先を見ている。

あれだけの実力を持ちながらも、年下の木乃香から学んだと素直に断言出来るそのプロ意識に木乃香は自分にはない圧倒的な強さ感じずにはいられない。



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