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平和な日常~秋~2

「野菜を使ったスイーツって……」

「難しく考えないならカボチャやさつまいもは野菜だし、実はいちごも分類的には野菜だよ。 イギリスやアメリカだと人参のキャロットケーキとかもあるけど」

木乃香が調理に取り掛かる前に食材の前で少し考え込む中、横島の周りの少女達も驚き戸惑っていた。

一見すると野菜とスイーツは合わないように聞こえたらしく、少女達は無理難題が来たのかと心配になったらしい。


「あっ、カボチャのプリンとかスイートポテトでもいいのね」

「まあな。 ただそんなありふれたスイーツでいいなら、わざわざ野菜をお題になんてしないんだろうけど」

横島が野菜の定義について少し説明して野菜を使ったスイーツを幾つか教えると少女達はホッとするが、肝心の横島は単純な意味では勝てないと気付いている。


「つまりお題をどう解釈するかということですか」

「ああ、大会側は単純な技量の勝負を望まなかったんだろうよ。 もしかすると木乃香ちゃんが決勝進出したからこそ出たお題なのかも」

今回のお題は解釈の仕方次第でどうとでも取れるが、それ故に勝敗を分けるポイントが技術からクリエイティブに変わったということだった。

単純に難易度の高いスイーツを指定すれば木乃香が不利なのは誰が見ても明らかである。

結局のところ経験の違いによる差は埋めようがなく、それでも木乃香にも勝機を与えるには単純な技術戦よりもクリエイティブな戦いにするしかない。

お題を広げてそれをどう表現するかで、料理人の技術だけでなく感性や閃きなどの総合力を問う形にしたのだろうと横島は思う。


「そこまで考えたお題なの?」

「多分そうだと思う。 木乃香ちゃんの経歴が半年のうちのバイトしかないのも大会側は知ってるだろうし、技量のレベルやレパートリーの数だって想像出来る。 同じ土俵に立たせてやりたいと考えても不思議じゃないからな」

お題に関する横島の考察に周りの人々は驚き聞いていた。

それはあくまでも横島の推測でしかないが、木乃香にも全力を出させたいと考えるならばおかしな話ではない。

何より料理大会は調理科の教師やプロのパティシエが大会運営をしているのだ。

近年はスポンサーも付き上位陣には名誉ばかりではなく現実的な利益まであるが、本来は生徒達に経歴を積ませることが目的なのである。



そして娘の姿をハラハラしながら見守っている詠春は、横島が語る考察に素直に驚いていた。

淡々と語る横島の考察はさして珍しいものではないし、ちょっと頭が回る者なら気付くだろう。

ただ人の心理を読むその姿勢には少し恐さも感じる。

それは単純なお人よしでもなければ馬鹿でもないという証であり、何か裏側があるかもしれないと考えるには十分な姿勢だった。

もし横島が敵対する勢力の人間ならば……。

そう考えると詠春は横島を無条件で信じることなど出来るはずがないのである。

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