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平和な日常~秋~2

「三人とも最後だから楽しんでこいよ」

「おうえんしてるからね!」

賑やかな人混みの中、横島達は木乃香や超達に一言声をかけると観客席に移動した。

ちなみに料理大会の準決勝と決勝の観客席は事前の一般予約制と関係者席に分かれており、横島達は関係者席に座っている。

関係者席は出場者の保護者やクラスメートの応援席となっており、この日は2-Aのクラスメート以外にも中等部の子や横島の店の常連の顔ぶれも結構あった。


一方の木乃香は超と五月と出場者控室に行くが、木乃香達が控室に入ると何故か一人の男性がギロリと睨みつけてくる。


「この大会もレベルが落ちたな。 いつからガキの遊び場になったのやら」

木乃香達を睨みつけてきた男性は大学生らしく、スイーツ部門の三人目の決勝進出者だった。

彼は木乃香達から目を離すと独り言を言うように呟くが、その声は木乃香達のみならず控室中に聞こえる大きさである。


「中学生相手にプレッシャーをかけるような大人にはなりたくないネ」

男性は恐らく木乃香にプレッシャーをかけたかったのだろうが、木乃香はあの人嫌な人だとしか感じておらず無視してしまい、代わりに超が答えると男性は再び苛立ったように超を睨む。


「あら、学園長先生のお孫さんと学園最強の頭脳に喧嘩を売る世間知らずがいるとは思わなかったわ。 彼女達を敵に回すと貴方なんかこの学園に居れなくなるわよ」

この時苛立っていたのは彼一人であり、残りの中華部門の決勝進出者一人とスイーツ部門の決勝進出者である新堂美咲は呆れた様子だった。

五月と木乃香は男性の相手をする気はないようだったが、超はどちらかといえば面白そうに笑みを見せて相手の喧嘩を買っている。

そんな均衡を破ったのは新堂だった。


「それに貴方のお父様がこんなことをしたと知ればなんて言うかしら?」

少し不機嫌そうな新堂が淡々とした口調で言葉を投げかけると、男は途端に大人しくなり控室から逃げるように出て行った。


「ありがとうネ。 流石はクイーンの異名を持つ新堂先輩ヨ」

「貴女に助けは要らないんでしょうけどね。 昔から弱いものイジメをするような馬鹿が嫌いなのよ」

控室が静かに戻ると超は真っ先に新堂にお礼を言うが、どうやら二人は顔見知りらしい。

まあ二人は昨年も同じ大会の中華部門とスイーツ部門の優勝者なので、知っていて当然だが。


「彼の父親は有名なパティシエで東京に店を何件か持ってるの。 とても厳しい人らしくて彼はこの大会で優勝して認めて欲しいんだと思うわ」

何故あの男性はあんなことを言ったのだろうと不思議そうな表情をする木乃香に気付いた新堂は理由を語るが、多くの優しさの中で育って来た木乃香にはあの男の気持ちなど理解出来ないしどう答えていいか分からない。


「相手が誰であれ気にする必要はないネ」

「そうよ。 貴女は貴女の大切な人の為に作りなさい」

突然のことで僅かに迷いが見える木乃香だが、超や新堂の優しい言葉を受けて試合に挑むことになる。

係員に呼ばれて会場へ向かう木乃香の瞳に迷いはなかった。


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