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平和な日常~秋~2

さて新堂と木乃香を抜いた八名についてだが、こちらも負けず劣らず調理を進めている。

全体的には他の八名はどちらかと言えば自分の個性をどう出すかを考えており、様々な工夫を凝らしてる印象が強い。

スポンジ生地の厚さや柔らかさから始まり、クリームの種類や甘さの強弱も合わせてそれぞれに個性が出ており一概に比べることなど出来ない状況だ。

総合的な技術や経験はやはり木乃香が一番劣っているが、必ずしも技術や経験が順位に繋がらないことが料理大会の面白いところであろう。

ちなみに木乃香は予選通過順位が三位なので、他の参加者からは当然注目を集めていた。

この試合の前に行われた中華部門では超鈴音と四葉五月が見事決勝に進んでおり、最早木乃香を初出場の中学生だと甘く見る者は居ない。

料理大会全体でも過去に決勝進出を果たした中学生は、昨年と今年の二年連続の超と五月だけである。

木乃香が三人目に加わるかという意味では、会場全体の注目度非常に高いものだった。



そして長いようで短い調理時間が終わるが、調理終了の合図と共に後片付けが終了しなかった者が三人ほど出る。

この料理大会は学園の主催の体育祭の正式競技なので、予選と同様に後片付けまで含めて終わらせるのが基本であった。

ただし採点割合や採点基準は参加者には詳しく知らされてないので、参加者によってはギリギリまで料理に集中する者も居る。

上位陣は基本的には全て終わらせるのが当然だが、予選下位の者は料理で一発逆転を狙う者もいるのだ。


「木乃香大丈夫かしら?」

そんな調理が終わる頃になると時間はすでに夕方であり、競技の終わった2-Aの少女達が集まっていた。

明日菜や夕映達も到着しており、観客席は試食と評価が進むのを見守っている。

試食の順番は予選下位の者からであり、木乃香は予選三位なのでラストから三番目だった。


「全くたいしたもんだよ」

「横島さん?」

「始めての大会で実力を出し切るのはなかなか難しいんだ。 よくまあこの観客の前であそこまで気が回るな」

一人一人順番が発表されるごとに観客は一喜一憂する。

そんな中で木乃香の出番になるが、横島が思わず唸ったのは木乃香がスイーツと一緒に提供する紅茶をいれる姿を見ていた時だった。

飲み物に関しては予選と同様に評価対象外ではあるが、その影響はやはり小さくはない。

そしてこの料理大会では試食直前に、最後の仕上げを行うことが認められている。

他の参加者が最後の仕上げにロールケーキにかけるソースや、沿えるアイスの仕上げなどを行う者が多い中で木乃香は紅茶をいれていた。

それも特別気負いすることなく、いつもの手順でしっかりと紅茶をいれていたのである。


(いつも通りやれとは言ったけど、本当にいつも通りやれるんだからな)

木乃香も当然緊張はしているし、初の晴れ舞台に気合いも入っていた。

そんな中でも平常心を保ち、いつもの実力を出せたことは素晴らしいことである。

他の参加者に比べると無欲であり将来もかかってないのでプレッシャーは少ないのは確かだが、だからと言ってなかなか出来ることではない。

正直かつての横島には絶対に出来ないことだっただけに、そんな木乃香の姿に尊敬すらしていた。



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