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平和な日常~秋~

同じ早朝、詠春は図書館島の地下に居るアルビレオ・イマの元を訪れていた。

麻帆良滞在中の詠春は仕事や木乃香の応援などで忙しく、なかなか暇がない為にこの時間に来たらしい。


「そうですか。 アーウェルンクスが生きて居ましたか」

外との交流が少なくなかなか外部の情報が入らないアルに、詠春は最近の情報を語っていく。

流石に関西や関東の機密は言えないが、そのほかの情報は別に言えない訳ではないのだ。

そんな訳で詠春からアーウェルンクス生存の情報を聞いたアルだが、さほど驚く様子はなく平然としている。


「私も彼の死は確認してないので、その可能性は十分あると考えてました」

「結局長い目で見れば二十年前の戦いは我々の負けだったな」

アルが出した紅茶を前に話をする二人だが、微妙に重苦しい空気が辺りを支配していた。

秘密結社完全なる世界の現在の規模は不明だが、かつて彼らを追い詰めた赤き翼の面々はもう連中と戦える状況ではない。

ナギは封印されているしアルも麻帆良を離れられないし、ガトウは死んだのだ。

魔法世界限定だが自由に動けるのはラカンだけであり、そのラカンも戦闘はともかくそれ以外がまるで役に立たないのでどうしようもなかった。


「アル、万が一ここが連中に露見しても我々は力を貸せないぞ」

「分かってますよ。 近衛学園長には迷惑をかけて済まないと思ってます。 それにナギの居ない今、私も魔法世界の行く末に関わるつもりはありません」

冷たい空気が二人の間を抜けた気がするほど、ひんやりとした場所だった。

詠春は単刀直入に万が一の場合は力になれないと告げるが、アルもまたそれを理解している。

どうも外の情報を少しは得てるらしく、現状では地球の人間が魔法世界の為に血を流すのは難しいと理解しているらしい。

それにアル自身も魔法世界の行く末には、積極的に関わるつもりがないようである。


「私は多くの生と死、始まりと終わりを見て来ました。 生か死か……、そして始まりか終わりかを決めるのは、今を生きる者達なのです。 私はここでナギの行く末を見守る以外は何も出来ません」

少し遠い眼差しをしたアルが語った言葉は、偶然にも横島の価値観に近いものだった。

元々赤き翼の中でも未来や世界の為にとの、強い想いがあったのはナギや詠春なのだ。

アルはどちらかと言えばナギが気に入り一緒に行動していたに過ぎない。

悠久の時を生きて来たアルにとって、始まりも終わりも同じ一つの経過に過ぎないのだろう。

魔法世界の人々が終わりに向かうならば、アルはそれを見守るだけのつもりである。


「もっとも、ナギならばそんなの関係ないと言って世界を救うのでしょうけど……」

「確かにあいつなら無理矢理にでも世界を救うんだろうな」

近くに居るのに話も出来ない親友に二人は己の無力さを感じずには居られなかった。

世界の為に命を賭けた仲間達を思うと悔しさが込み上げて来るが、ナギが居ない赤き翼は立ち上がることが出来ないようである。
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