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平和な日常~秋~

「ライバル視されたのでしょうか?」

「どっちかって言えば出来れば中学生だからって、ナメてくれると助かるんだけどな~」

しばし木乃香に視線を送っていた昨年の優勝者は、審査が終わると同時に舞台から降りている。

夕映は先程の視線の意味をライバル視したのかと考えたようだが、横島は甘くみて欲しいという希望的観測を語っていた。

しかし横島の思いはすぐに崩れることになる。


「はじめまして。 大学部四年の新堂美咲です」

舞台を降りて講堂から一度は居なくなった昨年の優勝者が、再び講堂に戻って来ると真っ先に木乃香の元にやって来てしまったのだ。

長く艶やかな金髪を靡かせた彼女はパティシエにしては痩せ過ぎているし、モデルと言われた方が納得がいく容姿をしている。


「はじめまして~、ウチは近衛木乃香です」

歩み寄って来た昨年の優勝者である美咲はライバル視というには少し穏やか過ぎる様子で挨拶をしてきて、木乃香もまた相変わらずのマイペースな様子で挨拶を返す。

周りでは2-Aの少女達がドラマのようなライバル意識でもあるのかと、ハラハラドキドキしながら見守っているが今のところそんな様子はない。


「マホラカフェのスイーツは何度か頂きましたが、まるで女性が作ったようなスイーツだと感じました。 貴方には是非一度お会いしたいと思ってました」

にこやかに木乃香と挨拶を交わした美咲は、何故かそのまま横島にも挨拶をして横島のスイーツの感想を口にする。


「下手の横好きってやつですよ。 俺はパティシエじゃない素人っすから」

「フフフ、噂通りの人なんですね。 でも、料理は嘘をつかない。 そうでしょう?」

相手に問われるように答える横島だが、相変わらずぺこぺこと腰が低かった。

一見すると美人にパシリにされてるようにしか見えないが、美咲はそんな横島を面白そうに見つめはするが決して軽んじる様子はない。


「準決勝の前に会えてよかった。 近衛さん、頑張って決勝まで来てね」

どこかノンビリとした木乃香にも腰が低くく軽い感じの横島にも、全く自分のペースを乱さない美咲は木乃香にエールを送り離れていった。

その様子はまさに王者の風格のような雰囲気である。


「厄介な相手ね」

「横島さんのペースに乱されない人は珍しいです」

美咲が居なくなるとどこか緊張感に包まれていた周りの少女達はホッと一息つくが、彼女が横島に惑わされず軽んじもしなかったことに千鶴や夕映は驚きを隠せなかった。

良くも悪くも横島は他人を自分のペースに巻き込むのが得意だが、相手はそれに乗って来なかったのだ。


「凄い人やな~」

「あれは一種の料理バカだな」

さて木乃香の美咲に対しての感想だが、彼女は素直に凄い人だとしか感じてない。

横島の影響からか腕前の割にプライドがない木乃香は、素直に凄いとしか感じなく普通に尊敬してしまう。

そして横島に関しては、美咲に知的な料理バカといったイメージを感じていた。

プロフェッショナルというのは多かれ少なかれそんな部分があるのだろうが、料理で相手を見て感じるその様はまさしくバカがつくほど料理が好きなのだということだ。

どこか昔の友人を思い出した横島は、木乃香の最大のライバルは彼女だろうと改めて感じていた。



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