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平和な日常~秋~

『土偶羅なにがあった?』

『近衛詠春がエヴァンジェリンに、ナギ・スプリングフィールドの現状を伝えたのだ』

一方エヴァに酒を出した横島は、エヴァの様子がおかしいことから土偶羅に事情を尋ねていた。

普段は滅多に使うことはないが横島は異空間アジトと霊的エネルギー供給などで繋がってるので、土偶羅の本体とは次元を超えても常時通信が可能なのである。

日頃感情の起伏の乏しいエヴァの始めて見るような変化に横島も少し心配になったらしい。


(そりゃ複雑な心境にもなるわな)

十年以上追い求めていた相手が敵だった者に乗り移られてすぐ間近に封印されていたのだから、心中穏やかでないのは確かだろう。

実際横島がエヴァの立場ならばすぐに相手を解放してやりたくなるし、危険と理解していても解放するかもしれない。


「これもらっていい?」

「ええけど、タマちゃんまだ食べるん?」

「ううん、あげるの」

そして厨房では木乃香の試作品が何種類か並んでいたが、流石に食べきれない分が余っていた。

タマモは木乃香に許可を取ると余ったモンブランを中心としたスイーツを皿に盛り付け、無表情で酒を飲むエヴァの元に持っていく。


「どうした?」

心ここに有らずといった様子のエヴァだが、流石にスイーツを持って来たタマモには反応をする。

しかしタマモは何も言わずにスイーツをエヴァに届けると、ニッコリと笑って戻っていくだけだった。

タマモが自分で盛り付けたその皿は横島の盛り付けを真似てはいるが、ところどころ失敗もしている。

だがそれはタマモが頑張った努力の跡でもあり、エヴァを精一杯元気づけようとしたのだとエヴァ自身痛いほど感じてしまう。


(私はショックを受けていたのか?)

幼いタマモの純粋過ぎる気持ちは、複雑な感情が入り混じっていたエヴァに一筋の光として見えていた。

まさかあんな幼子に心配されるとは、エヴァ自身も考えもしなかったのだろう。

実際にタマモの感性が人間とは別格なのはエヴァも以前から気付いていたが、それを直接受けるとまた印象が変わる。


(お節介なのは奴の影響か? それともあいつらの影響か?)

放っておけばいいものをと考えなくもないエヴァだが、お節介なのは横島の影響か木乃香達の影響かと考えてしまう。

はっきり言えばタマモの現状が妖怪として異常なのはエヴァも理解している。

人の中に生き屈託のない笑顔を見せることが出来る妖怪がどれだけ居ようか。


(全く……お節介な連中だ……)

甘いスイーツを肴に酒を飲むエヴァだが、その雰囲気が少し変化したのは横島とタマモには見えていた。

無論心残る蟠りが完全に消えた訳ではないが、それでもエヴァの中の何かが少し変化したことは確かである。

結局この日は賑やかな厨房と相対するように静かな店内で、エヴァは終始無言のまま時の流れに身を任せていた。



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