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平和な日常~秋~

さてフェイトアーウェルンクスの情報を確認した詠春は近右衛門と今後の対策を話し合うが、現時点で決断出来ることは情報の共有化と緊急時に備えて即応戦力を確保するくらいだ。

具体的な連携や指揮権の問題などは幹部単位で話し合いが必要であり、いかに二人が魔法協会のトップでも全てを独断で決めることは不可能である。


「一番の問題は見つかった場合ですね」

「そうじゃのう。 じゃがはっきりいえば地下のアレを命懸けで守りたい者はおらんぞ。 アスナ君ならばまだ理解する者もおるしイザとなれば連れ出せるがの」

フェイトへの対策は基本的には現状の警備の強化と東西の連携で進むが、一番の問題はアスナ姫と創造主の存在が露見した場合だった。

最悪明日菜に関しては麻帆良から連れ出して隠れ場所を変えることも近右衛門は考えているが、世界樹の地下の創造主だけは扱いがむずかしい。

存在を知るのは古参の幹部と雪広家と那波家の一部だけだが、誰も仲間達に命を賭けてアレを守れと言える者は居るはずがないのである。

本音を言えば麻帆良に危害が及ばぬならば、フェイトに引き渡してもいいのではと考える者もいた。

明日菜の場合はまだ同情的な者も多く最悪隠れ住む場所を変えれるのでいいが、動かしようがない封印された創造主を守りたい者はいなかった。


「当然の結論でしょうね。 関西でもアレの存在は問題視ています。 今回も我々が直接狙われなければ動かなかったでしょう」

話が創造主の処遇に関わると詠春は苦悩の表情を浮かべながら関西の立場を語っていく。

関東の魔法使いですら誰も創造主を守りたくないのに、より無関係な関西の魔法使いが守りたいはずがない。

そもそも世界樹から動かせない創造主を完全なる世界の幹部クラスから守るのは、多大な犠牲を出しても可能か不可能かのぎりぎりのラインなのだ。

関西呪術協会の幹部が認めたのは緊急時にアスナ姫を匿うことだけだった。

まだアスナ姫ならば最悪の場合京都から追い出せばいいだけなので認めたが、誰も魔法世界の危機など関わりたくないのが本音である。

まあ二十年前に攻められた側とすれば当然の反応だが。


「婿殿の気持ちを考えるとつらいんじゃがのう」

関東も関西も公然と批判が出ないのは、近右衛門や詠春の努力と人徳の結果だった。

近右衛門としても娘婿の親友を邪険にはしたくないが、それでも組織と仲間を天秤にかけるなど出来るはずがない。


「分かっています。 ナギも覚悟の上のことでしょう。 それに……、この世界には悪魔は居ても神や仏は居ませんから」

拳を握りしめ悔しさを露にする詠春だが、組織のトップとして決断せねばならぬ時だと理解していた。

ナギが創造主と共に麻帆良に封印されて約十年過ぎるが、今日までどれだけ麻帆良に負担をかけたかは詠春も理解している。

近右衛門達とて魔法世界の平和の為にとこの十年隠し続けて来たのだ。

今後もし創造主の存在が完全なる世界に露見し万が一攻められたら……、関東は創造主を完全なる世界に引き渡し関西は彼らを日本から追い出すために協力することが決まる。

それは最悪の場合は魔法世界を見捨てる決断であった。

近右衛門も詠春もナギ達の苦労と犠牲を知ってる故に、そんなことはしたくはないが他に方法が無い。

過去完全なる世界は地球側の人間は殺さなかったの事実もあったが、永久石化などといった死よりも厄介なことをされた事実がない訳ではない。

加えて連中がいつまでもそれを貫くかは誰にも分からない。

現にメガロメセンブリアの人間は何人も殺されているのだ。

例え魔法世界の人々に怨まれようとも、二人は組織と仲間の命を懸けて守れとは決断出来なかった。

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