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平和な日常~春~

「刀子さん、あの喫茶店のマスターどう思いますか?」

同じ頃麻帆良の郊外で葛葉刀子に剣の指導を受けていた桜咲刹那は、最近気になっていた件を刀子に相談し始めた

それはやはり木乃香の件であり、刹那は横島の正体が気になるようである


「どうって、普通だと思うわ。 裏に関わるらしい人物だって話は聞いたけど、誰にでも明かしたくない過去の一つや二つはあるものよ」

横島を気にする刹那に対して刀子は初対面の時を思い出し少し動揺するが、個人的には特に問題視はしてなかった

実は刀子もまた木乃香の護衛を担当している一人であり、女子寮近くに一人暮らししている

しかし刀子と刹那では基本的な価値観が違い、刀子は麻帆良での木乃香の周辺は安全だと判断していた


「それは、そうですが……」

過去をむやみに詮索するなとやんわりと釘を刺す刀子に、刹那は自身と重ね合わせ複雑そうな表情を浮かべるがやはり心配なのは変わらないようだ


「そもそも貴女が思うほどお嬢様は危険じゃないわ。 現状はただの一般人ですもの」

刹那は神経質なまでに周りを警戒しているが現状の木乃香は魔法を知らない一般人であり、それほど危険な立場ではないと考えられている

まあ営利誘拐やら近衛家や赤き翼で派手に暴れた詠春への恨みなどは警戒する必要はあるが、それも今までは全く問題がなかったのだ

どちらが正しいのかは判断が別れるのだろうが、現時点で木乃香が狙われるだけの理由がないと言うのが近右衛門や刀子達の考えである

関西呪術協会のごく一部には木乃香の関東行きを快く思ってない者も居るが、だからと言って魔法を全く知らない木乃香を無理矢理西に戻してもあまり意味のないことなのだ

関西呪術協会は現主流派を含めてほとんどの者が関東とのこれ以上の争いを望んでないし、ごく一部の過激派が木乃香一人を得ても体制が変わるはずなどない

それに関西呪術協会の大半の者は関東魔法協会と言うよりは、魔法の国であるメガロメセンブリアの介入を毛嫌いして排除したいだけなのだ

そう言う意味では近右衛門が関東魔法協会を掌握して以来は、東西の関係がだいぶマシになっている


「あんまり考え過ぎないことね。 怪しいと言うだけで相手を警戒したら余計な波風が立つだけよ」

相変わらず複雑そうな刹那に刀子はため息をはきつつ、ほどほどにしろと告げるしかなかった

結局刹那は自分の目の届かない場所に居る木乃香に不安を感じてるのだろうが、護衛としては明らかにイレ込み過ぎである

心配だからと言って木乃香の交遊関係にまで警戒するのはやり過ぎだった


「はい……」

そのまま少し落ち込んだ様子で帰る刹那を、刀子は困ったように見つめている


(結局寂しいんでしょうね。 素直にお嬢様と友達になればいいのに……)

詠春は元々刹那に木乃香の友人になって欲しいと考え、護衛という名目で麻帆良に送り込んだのだ

実際護衛の件は安全な麻帆良では刀子を始め複数の魔法使いで十分なのである

しかし現状では妙なこだわりというか恐怖から変に離れてしまったため、本末転倒の状態だった

刀子は刹那にもう少し大人になって欲しいと願わずには居られなかった


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