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平和な日常~秋~

一方横島が美砂達に絡まれている中、木乃香は葡萄の木を見ながら少し物思いに耽っていた。

元々京都の山奥で暮らしていた木乃香にとって、自然は決して珍しいものではない。

ただ葡萄畑のような農園などには来た経験がないし、多くの葡萄が実った畑は新鮮だった。


「木乃香、どうかしたの?」

「ううん、別に……。 ただ凄いなって……」

そんな物思いに耽っていた木乃香にハルナは声をかけるが、その時の木乃香の表情はどこか大人びた表情に見える。

以前の木乃香はどこか箱入り娘のような感じがあったが、いつの間にか大人の表情をしていた事実にハルナは素直に驚く。


「横島さんは相変わらずやな~」

ハルナに声をかけられ視線を向けた木乃香は、そのまま美砂達に囲まれ遊ばれてるようにも見える横島に視線を移すと思わず笑ってしまう。

周りに振り回されてる横島の姿は見慣れたモノだったが、木乃香はそれ以上に横島があまり人に見せない一面をよく見ている。

同年代の友達のように感じる時もあればまるで両親や祖父のように感じる時もあり、そのギャップが不思議で仕方なかった。


「木乃香もいつの間にか大人になったわね」

物思いに耽ったり横島を見つめる木乃香の表情は、ハルナから見て明らかに成長している。

少し落ち着き過ぎなのがハルナとしてはつまらないが、横島達を見て笑っていると同時に信頼の笑みが見えるのは以前にはなかったことだった。


「大人? ウチにはようわからへんわ」

そんな少しからかうようなハルナの言葉に、木乃香は冗談だろうと笑い飛ばしてしまう。

大人や恋愛への憧れは木乃香のみならず彼女達の年代の少女は多かれ少なかれ持っているが、最近の木乃香は以前はあったそれらへの憧れがあまり見えない。

それは別に憧れ自体が無くなった訳ではなく、形が少し変わっただけだろう。

木乃香も恋に恋するような恋愛には今も当然憧れるが、反面でそれを求める気持ちは今はあまりなかった。

現状の慌ただしくも穏やかな毎日の生活が木乃香は本当に好きなのである。

仮に誰かと恋愛をしても、その人だけを見て今以上に幸せを感じるとはとても思えないのだ。


「木乃香……あんた……」

僅かな期間で大人びた表情を見せるようになった木乃香の変化の原因は、どう考えても横島しかなかった。

夕映やのどかですら変化したのだから木乃香の変化も当然だが、木乃香の横島に対する感情は友達に対する感情とは明らかに違うモノである。

普通はそれが恋愛に発展するのが自然なのだろうが、木乃香は恋愛を知らないので恋愛にならないままに横島と友達以上の信頼関係を築いてしまっていた。


(こりゃどうなるんだろうね)

木乃香と横島の微妙な関係に気付いたハルナだが、横島は横島で女性が苦手なので恋愛にはしたくないのだろうと推測している。

しかし木乃香が恋愛を自覚するのはそう遠い未来ではないだろう。

現に美砂達を含めて半ば面白半分の者達だが、横島に迫る女性が居ない訳ではないのだ。

微妙なバランスの上で成り立つ横島と木乃香の関係のバランスが崩れた時が、ハルナは少し心配だった。

夕映達や千鶴や刀子を含めて横島に好意を持つ女性も少なくないだけに、中心に居る横島と木乃香のバランスが崩れると影響は大きいだろう。

正直横島にその手の経験や対応が出来るとは思えないだけに、不安になるのは当然である。

ただハルナにはどうしようもない問題だったが。



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