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平和な日常~秋~

土偶羅の人型がこの会社で雇った人は、種族を問わずおよそ五十人ほどだった。

空中船の操縦や整備の経験者の二十人ほどは他の都市などで雇ったが、残りの三十人はこの町で雇った人である。

全長百メートルの空中船ともなれば、最低限運航するだけで三十人は必要なのだ。

現在の五十人も本当に最低限の人員である。


「うむ……」

この日、土偶羅の人型分体は町の市場を訪れていた。

まあ市場と言っても町の中央付近にある広場で開かれる露店市であるが。

魔法世界の辺境には当然日本のような大規模なスーパーや商店は存在しないし、食料品のほとんどはこうした露店市場や農家から直接買うことが多い。

地元では収穫出来ないような作物や魚介類なども市場にはあるが、これは別の町から小型の空中輸送船で運ばれるため少々割高である。


(魔法が普及するのも良し悪しだな)

土偶羅は魔法世界にしかない作物や魚介などをいくつか買っては市場をぶらぶらするが、全体的に町の文明レベルは中世から近代の中間という感じだ。

この世界では魔法という技術があるのであまり科学技術は発達してない。

無論メガロは別だが、一般的な魔法世界の町や国は当然魔法が主体である。

まあそれが悪い訳ではないが全体的に魔法も科学も技術の進歩は必ずしも早いとは言えず、技術進歩による優位性に大半の人々が気付いてないのは問題だった。

そもそも魔法も科学も異なる基礎を元にはしているが、目指す先は同じであり技術が進めば進むほど差が無くなっていく。

そして魔法と科学を超越した究極が、コスモプロセッサーである。

まあ別に技術が発達しないのが悪い訳ではないが、だからと言っていい訳でもない。

ただ土偶羅とすれば魔法世界の基盤構築に気をつける必要はあった。

土偶羅は別に魔法世界で産業革命を起こしたい訳でもないし、魔法世界を発展させたい訳でもない。

不要な技術や情報を広める気は全くなかった。


(しかし生態系の違いは少々問題だな)

そんな土偶羅がこの頃悩んでいたのは、魔法世界と地球の生態系の違いである。

基本的に魔法世界の動植物の生態系は、地球とは異なるのだが完全に違う訳でもない。

例えば麦や米などは多少品種は違うが同じく存在する。

しかし生態系が違うということは、地球の動植物を持ち込むと生態系を壊す可能性もあり出来れば使用したくはない。

まあ普通に魔法世界に拠点を作るだけならば必要ないのだが、魔法世界への介入を検討するならばそれなりに準備が必要なのである。

少なくとも魔法世界に持ち込める食料品の備蓄は始める必要があった。

実際に現段階では介入の有無も含めて全て未定だが、最悪の場合の武力介入を想定すると戦略物資や食料品の備蓄はどうしても考えなければならない。


(とりあえず報告を上げてサンプルを送ればいいか)

少し考え込んでいた土偶羅の分体だが最終的には本体が考えるだろうと、必要な情報と動植物のサンプルを異空間アジトに送ることに決める。

魔法世界の物はそのままでは異空間アジトにも持ち込めないので少々面倒だが、その辺りはアシュタロスの残した技術があるので問題はない。

最終的にどうなるかは未定だが、この日も土偶羅は地道に任務を熟していた。



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