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平和な日常~秋~

そこは魔法世界にある、何の特徴もないただの辺境の町である。

町の主な産業は農業と林業だが、基本的には自給自足をしている魔法世界ではよくある典型的な辺境の町だった。

人口は五千人ほど居るが種族は様々であり、二十年前の大戦時に各地の戦乱から逃れて来た難民によって出来た町である。

元々魔法世界では種族を越えた関わりはあまり多くはなかったが、皮肉なことに種族を越えた関わりが増えたのは二十年前の戦争が原因だった。

戦争は連合と帝国の争いを中心に戦っていたが、地方や辺境も決して関係がなかった訳ではない。

元々対立していたのは連合と帝国だが、他の種族や都市国家の間での対立もなかった訳ではないのだ。

戦争の影響で地方や辺境でも争いや小競り合いが頻発した結果、元々は種族単位で形成されていた町や村が崩壊して異なる種族が混じり合う町や村が増えたのである。

もちろんアリアドネーやウェスペルタティア王国のように、それぞれの事情で戦前から異なる種族が共存していた国もある。

しかし世界規模で種族の垣根が低くなったのは戦争による混乱が大きい。

土偶羅が魔法世界の拠点の一つに選んだのはそんな町だった。


「しかし大きな倉庫だな~」

「こいつは例の巨大運搬船の整備用だってよ」

「へぇ~、こんな田舎にあんなでかい船で運ぶ物なんてあるのかねぇ」

町の郊外には畑が広がっているが、土質の問題で畑には不向きな土地を土偶羅は大量に買い付けて運送会社を設立していた。

敷地には今のところ小さなログハウスのような事務所しかないが、町の人々により半地下の巨大な倉庫が建築されている。

現在は農繁期な為に建築は一時ストップしているが、倉庫の外観は早くも出来ており完成も間近らしい。

そんな巨大倉庫の近くには一隻の空中船が野ざらしで置かれている。

魔法世界において駆逐艦に分類される空中船だが、二十年前の戦争時に建造された戦時量産船であり魔法世界ではよく見かける種類であった。

空中艦の中では比較的小型の駆逐艦タイプは戦争中は様々な任務で活躍するが、どこぞの英雄のグループが生身で空中艦を次々に落とした影響で空中艦建造ラッシュが起きたのが原因だったりする。

その結果連合・帝国問わず力の限り建造し続けた空中艦は、戦後軍機に値する装備などを外して非武装空中船として民間に二束三文で売却されていた。

当初は非武装にしたとはいえ改修次第で再武装が可能な空中船の売却には異論もあったが、両陣営共に戦後は膨大な戦費や復興費用で何よりも金が必要だった為売るしかなかったのだ。

まあその結果当然のように空中船を使った空賊が現れたりと問題も起きたが、連合と帝国やアリアドネーなどが独占していた空中船の技術が世界に広まったのは事実である。



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