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平和な日常~秋~

「うーん、イマイチやなぁ」

「合格ラインには達してるよ」

その後も何度かスポンジ生地を焼く木乃香だが、本人が納得出来る物がなかなか作れないようだ。

実際は明確に失敗と言えるレベルではないが、一緒に焼いた横島の物と比べると些細な差が気になるらしい。


「おいしいよ」

「でも横島さんの方がもっと美味しいやろ?」

「うん」

一緒に作っても出来る味の差に悩む木乃香だが、タマモは十分美味しいと感じるらしく不思議そうだ。

しかし木乃香が横島のと比べて話をすると、タマモも素直にその違いを認める。

タマモはここで嘘を付けるようなタイプではないし、木乃香もタマモにそんなことは求めてない。


「普通は何年も経験積んで覚えるもんだからな。 焦らないでもう一回やろう」

「そうやな」

結局横島は前回の反省点を一つ一つ説明して教えつつ、もう一度同じスポンジ生地を作り始める。

それは本当に細かい些細な点で今までは指摘しなかったようなことも入っていたが、それだけ木乃香の料理の腕前が上がっている証でもあった。

そもそも木乃香の料理の腕前やクセを百パーセント理解して、経験を積ませながら必要なタイミングで適切なアドバイスをするのは人間技ではなかなか難しいだろう。

横島本人にはあまり自覚はないが、それは霊能を横島に教えていた小竜姫のやり方に少し似ていた。

失敗や欠点を経験させ理解させながら導くその教え方の効果は言わずとも知れたことである。

それがどれだけ貴重か木乃香が理解するのはまだ先のことだった。



「ところでさ。 こんなに作ってこれどうするの?」

その後も時間が許す限り何度もスポンジ生地を焼く横島と木乃香だが、夕方の新聞配達を終えて店を訪れた明日菜が見た物は十個以上もあるスポンジ生地である。

もう客が多く来る時間ではないし、何よりどのスポンジ生地も味見をしてるのでところどころ切られていた。

まさかこれが夕食かと明日菜は微妙な想像をしてしまったらしい。


「そういや考えてなかったな。 せっかく作ったんだしショートケーキにして配るか。 デコレーションの練習にもなるしな」

明日菜の言葉に練習にと作ったスポンジ生地を見て横島は僅かに考え込むが、どうもこの後始末をどうするかは本当に考えてなかったようだ。

結局はデコレーションの練習の為にショートケーキを作って、木乃香達の女子寮で無料で配ることになる。

明日菜や夕映達にもせっかくだから好きなだけ持っていけとは言うが、日頃から店の余り物のスイーツを貰っている彼女達が早々何個も食べるはずがない訳だし。


「そろそろ夕飯か。 木乃香ちゃんはケーキにデコレーションしてくれ。 俺はご飯作るよ」

正直木乃香とタマモはスポンジ生地の味見であまりお腹が空いてないが、明日菜や夕映達はそろそろお腹が空く頃だった。

横島は木乃香にデコレーションの練習をさせつつ、自分は夕食を作ることにする。



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