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平和な日常~秋~

一方放課後の中等部では高畑が近右衛門に呼ばれていた。

用件はもちろんフェイトの一件である。


「まさかアーウェルンクスが生きていたとは……」

その強さを嫌というほど理解してる高畑は、近右衛門からイスタンブールでフェイトが発見されたと聞くと呆然として信じられないようだった。

貸すかに手が震える高畑と険しい表情の近右衛門は、しばし無言のまま重苦しい空気が学園長室を支配する。


「連中の狙いは言わずとも理解しておるじゃろう。 高畑君は当面麻帆良から離れぬように頼む」

沈黙を破ったのはやはり近右衛門であり高畑に対し万が一を考えて、当面は麻帆良から離れぬようにと頼む。

現在も高畑は個人として悠久の風のメンバーとして活動をしていたが、相手の狙いが分かってる以上近右衛門としては出来るだけ戦力を確保したい。

そもそも悠久の風は魔法使い達によるボランティア活動の団体の一つであるが、秘密結社完全なる世界の完全壊滅が目的でもある。

団体のトップはメガロメセンブリア認定の立派な魔法使いであり表向き元老院とは直接的な関係はないことになっているが、実際にはメガロの情報組織との繋がりがある独立系下部団体だった。

団体の設立はクルト・ゲーデルが一枚噛んでおり、無論高畑もそんな裏事情は知っている。

高畑としてはあくまでも完全なる世界の壊滅の為の共闘との認識が強いようだが。


「現時点では彼らの存在を誰がどこまで知っていたかは不明じゃ。 もしかすれば元老院の一部は知っていて泳がせていた可能性もある。 彼女を守るには君の力が必要なのじゃよ」

実のところメガロメセンブリア側も今回の件は知らなかったようだが、近右衛門は現時点ではそこまでメガロの情報を得てない。

それに仮に情報を得ても、本当に全ての者が知らなかったのかは分からないのだ。

元老院と一言で言っても考えや理想は様々だし、中には少数だが地球側へ帰還して自分達が世界を導くべきだと考える過激な者も存在する。

完全なる世界への対策も急務だが、同時にこの情報の裏側が見えない限りは誰が敵で誰が味方かすら分からない。

最低限状況が判明し落ち着くまでは、戦力の分散は絶対に避けねばならなかった。


「分かりました。 悠久の風には僕から当面活動を控えると連絡しておきます」

近右衛門の要請に対し高畑は、素直に受け入れ悠久の風での活動に当面参加しないことにする。

正直現状では高畑ですら元老院の陰謀かとの疑念が捨て切れない。

友人であるクルトに関しても完全なる世界の壊滅こそ同意しているが、他はアスナ姫の扱いなどは考え方の違いが大きいのである。

高畑は世界の為とはいえ明日菜を犠牲にするのは許せないが、クルトは助かる命の数の違いからアスナ姫は生きてるならば魔法世界に戻るべきだとも考えていた。

実際クルトはアスナ姫に関しては、関東か関西に匿われてることをほぼ確信している。

高畑自身はアスナ姫の行方はナギと一緒で知らないと言うが、クルトは長い付き合いなだけに生きてるのをほぼ確信しており、高畑が日本に居る以上はアスナ姫も日本に居る可能性が高いのは重々理解していた。

ただクルトはその事実を誰にも話してなく、逆にアスナ姫は死んだのだろうと周囲に話している。

メガロメセンブリアの人々を救うにはアスナ姫が鍵なのはクルトも同じだが、正直クルトは同じ元老院を全く信用しておらず自らが権力を完全に握るまではアスナ姫の所在を元老院に知られるのを妨害していたのだ。

高畑はもしかすればクルトならば、彼らの情報を知りつつ泳がていたのではと疑っていた。

結局高畑には現状は近右衛門を信じて明日菜を守るしか、選べる選択肢がなかった。



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