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それぞれの想い

その頃、令子は寝室で一人酒を飲み続けていた

味わってる様子も無く、ただ流れ作業のように酒を飲む姿はなんとも言えない様子である


「GSをやる理由ね……」

数時間ぶりに声を発した令子は、ふと夕食時の西条の話を思い出していた

あの時は苛立ちが先に立ち話をしなかったが、ずっと頭に残っていたのだ


(私はママが居たからね… GSが当たり前で当然だった。 でもおキヌちゃんはもっとたくさんの未来があるのよね)

小さい頃を思い出した令子は、GSという仕事について考え込む

美智恵が死んだと思った後の孤独な学生時代、令子にとってGSは死んだ母親との数少ない絆だった


しかしおキヌは自分とは違い、誰にでも優しく人当たりもいい

はっきり言うと、危険なGSを続けなくても幸せを掴めるのではと思ってしまう


「私……」

その時、グラスを持つ令子の手は微かに震えている

おキヌには幸せになってほしいと心底願う令子だが、子供が親から自立するようにおキヌが自分の元から去る未来を想像したら、自然に手が… いや体が震えていた


「私は美神令子よ」

理由のわからぬ震えを令子は無理矢理抑えていく


(変わらない関係なんて無いのよね… 結局、私が望んだ相手は消えてしまう)

美智恵や西条や横島…

令子が側に居てほしいと望んだ相手は、みんな消えてしまった

美智恵と西条は戻って来たが、失った失望感と時間は戻らない

昔と同じ関係には戻れなかったのだ


「あの頃が懐かしいわね」

ふと思い出すのは馬鹿やって騒いでいた日々

横島のセクハラが煩わしくてイラついた懐かしい日々

そんな事を思い出しながら、令子はいずれおキヌも自分の元を去って行くのだろうと、自分に言い聞かせていた


しかし… 過ぎた時が戻らないように、自分もまた変わりゆくことを令子は自覚してない

そして現在の令子にとって、おキヌが何より大切な相手なのをまだ自覚してなかった



その頃、おキヌはまだ起きていた

横島が送った手紙と、渡せなかったバレンタインチョコを無言で見つめている


「GSか……」

おキヌもまた将来のことを考えていた

令子と横島が居るからこそ、何も疑問を感じることなく目指した道

いつまでも自分だけ足手まといになるのが嫌で、令子や横島と共に戦うために選んだ道だったのだ


しかし…

おキヌの求めた未来はもう無い

(私はどうしたいんだろう…)

改めて生きる意味や望む未来をおキヌは考える

彼女にとって令子と横島は本当の家族以上の存在だったし、それはこれから先も変わらないだろう


しかし、彼女の望む未来はもう無いのだ

そんな中でおキヌは、生きる苦しさや辛さを改めて感じていた

それだけおキヌは今まで幸せだったのだ



横島達や令子やおキヌ…

道の分かれた者達は、それぞれの未来へ向かって進んで行く

それが例え本人が望まない未来であっても…



そして横島がパーティーに呼んだ者達もまた、この日を境に新たな未来へ進んで行くことになる

この日の出会いが、横島の予想もしない意味を持つことになるのだが…

それが明らかになるのはまだまだ先のことである


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