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平和な日常~秋~

草木も眠る丑三つ時なんて言葉もあるが、その日横島は眠れなかった。

未来は無限にある可能性の一つでしかないことは横島も十二分に理解してるが、それでも超鈴音の過去は重いものだった。

ベッドには狐形態に戻ってすやすやと眠るタマモの姿があるが、横島はそんなタマモを起こさぬように静かにベッドから抜けると寝室から出ていく。

深夜にも関わらずリビングでは横島同様に睡眠が必ずしも必要ないさよとハニワ兵が楽しそうにテレビを見ているが、最近CS放送に加入したので深夜にも関わらず見る番組には困らないらしい。

横島はそのまま一人で屋上に行くと、タバコに火をつけて無言のまま空を見上げる。


(過去に戻って歴史を変えるなんて、どんな気分なんだろうな。 しかも自分が生まれる遥か過去になんて……)

超鈴音の行動は横島にとって何とも微妙な近親感を感じてしまうものだった。

かつて横島は二度過去に行き、三度目の過去への時間移動も考えたことがない訳ではない。

無論横島は世界を救うなんて綺麗事を言うつもりはなかったが、例えば未来で失った仲間達の魂と共に過去に戻り過去の自分と融合するのも数多の選択肢の一つとしてあったのは確かなのだ。


「世界の行く末なんて、俺の手に負える問題じゃねえんだがなぁ」

覚悟がない訳ではない。

横島自身結果として数えきれないほどの命を奪って来たし、いざとなれば躊躇しないだろう。

だがそれでも好き好んで生死と隣り合わせの日々に戻りたいはずはない。


「なんか、あの人を思い出すな……」

覚悟を持ち時間移動して歴史を変えようとする超の姿に、横島はかつての上司の母親である美神美智恵を思い出す。

まあ超は美智恵と比べると幼く未熟ではあるが、時間移動してもなお確固たる信念がある点など似てる部分も多少ある。

ただ決定的に違うのは、超が救いたいはずの未来はこの時代に居ては救えないという現実だった。

時間移動をする制限が大きい超では、美智恵のように過去や未来を渡り歩き目的を果たすのは不可能だろう。

そもそも時間移動は超が考えてる以上に危険で難しいことなのだ。

彼女の歴史改変の余波はこれからも広がるだろうし、超にはそれをコントロール出来るとは思えない。


「出来れば彼女にも幸せになってほしいんだけど」

もし超と今ほど親しくならなければ、きっと違う決断をしたかもしれないと横島は思う。

超鈴音が変わりゆく世界でこれからどう決断し行動するかは横島にも土偶羅にも正確には分からないが、超は麻帆良にとって危険過ぎる存在だった。

はっきり言えばさっさと元の世界に送り返した方が問題が減るのは確実である。

ただ横島自身も先月の納涼祭では超に助けてもらったし、それに麻帆良祭以降は友人と呼べる信頼関係が横島と超にはあった。

何より現状のまま横島が未来に送り返しても、超自身はろくな人生にならないだろう。


「……難しいことは土偶羅に任せるか」

そのまましばらく考え込んでいた横島だが、それでも超をどうするかは決まらなかった。

敵として排除したくないならば味方にするなり話し合うなり必要だが、秘密が多い超と横島ではそれもまた簡単な話ではない。

結局横島は土偶羅に対策を丸投げするという、いつもと同じ方針に落ち着くしかなかったようである。



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