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平和な日常~秋~

その後も観測会は和やかな雰囲気のまま続いていく。

満月に近いこの日は月明かりだけでも十分明るく、ほのかな月の光の下で十五夜に纏わる話などを聞きながらの天体観測は何とも言えない風情があった。


「二人とも寒くないか? そろそろ上着着た方がいいぞ」

横島達が店を出たのはまだ西の空が明るい頃だったので快適だったが、日が沈むと秋の冷たい風が時折吹き抜けて来ており半袖では少々肌寒い。

横島はハニワ兵が持たせてくれた上着をタマモとさよに渡して着せる。

特にさよは実体化の影響で幽霊時代には感じなかった五感を突然感じるようになったため、暑さや寒さに少し敏感であった。

流石に人間の風邪を引くことはないが、さよの霊力では人間とほぼ変わらないので寒いのも暑いのも同じように感じてしまう。


「上着持って来たか? ないならこれ着ていいぞ」

タマモとさよが上着を着たのを見ていた横島だったが、先程から一緒に居る千鶴は夏服の制服のままである。

寒いというほどではないが風が冷たく感じるのも確かなので、タマモやさよと同じ感じで自分用の上着を千鶴に差し出す。


「……お借りします」

突然自分にも服を差し出す横島に、千鶴は一瞬だが珍しく驚き固まってしまう。

それはあまりにも自然で何気ない行動である。

横島としては日頃からタマモ達や木乃香達が周りに居るので習慣的に千鶴を気遣っただけだが、千鶴は少し意識してしまった。

以前千鶴に木乃香達と同じだと言った横島だが、改めてこうやって普通に同じ扱いをされると驚いてしまったらしい。


「どうした? ちゃんと洗った服だぞ。 もしかして新品じゃないと嫌か?」

一方の横島は千鶴が驚いたことで、自分の着た服が嫌だったのかと気になってしまう。

相手の感情は見えてしまったが、思考えまでは見ないように心掛けてるだけに妙な勘違いをしたようだ。


「いえ、そんなことありませんよ」

少し不安そうな横島に千鶴は借りた服を着て何故か嬉しそうな笑顔を見せる。

そんな千鶴に横島はホッとするが、同時に周りの人達の視線も更に強まっていた。

横島も千鶴も他意はないが、その行動は二人の関係の近さを周りに見せ付ける行為になっている。

元々千鶴は男性に対してガードが固く、今回のように服を借りたりするようなことはやんわりと避けていたのだ。

それがタマモやさよと一緒に年相応の笑顔を見せて服まで借りたとなれば、周りの人々は再び勘違いを始める。


「ねえねえ、もっとおはなして!」

さてそんな千鶴だったが周りの反応は特に気にした様子もなく、タマモに急かされるままに月や星座を見せながらそれに纏わる話を語りだす。

そのお話にいつの間にか周囲には小さな子供達が集まって来ており、みんな興味津々な様子で千鶴の話に耳を傾けていた。

横島は横島で何故か集まって来た子供達に順番で望遠鏡で月や星座を見せる役割になっており、横島達と千鶴は子供達に囲まれたまま時間が過ぎていく。


そのままこの日の観測会は楽しく終わるが、大学生や高校生の男子を中心に横島と千鶴の噂が勝手に燃え上がったのは言うまでもない。

女子中高生は割と横島を知っており誰にでも同じ態度なのでほとんど気にしてないが、横島をあまり知らない男達はいろいろ衝撃だったようである。



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