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それぞれの想い

それから店内は、ようやく楽しい食事になっていく

個々にはいろいろあるのだろうが、みんな今日この時間を楽しんでるのは同じであった


酒や食事が進んでいく中、銀一が横島の子供の頃の話などをして大いに盛り上がり時間は過ぎていく……



そして深夜2時過ぎになり、集まったメンバーがそれぞれ帰って魔鈴の店は静けさに包まれている


「パピリオ、ベッドに行こうな」

店内の席でベスパに寄り掛かかって眠るパピリオに、横島は声をかけるが目を覚ます様子は無い

いつもは妙神山で早寝早起きを教育されてるらしく、今日は夜更かし出来るのを喜んでいたのだ

最後まで起きてると楽しそうに騒いでいたせいもあってか、途中で疲れて眠っている


「ベスパもいろいろ疲れたろ? 二人には部屋を用意してるからゆっくり休んでくれ」

パピリオに続きベスパにも声をかける横島だが、二人の姿に懐かしさが込み上げていた


「あの日を思い出すね…」

横島の問い掛けに、ベスパは何気なくつぶやく

彼女も横島と同じく懐かしさを感じていたようだ


「そうだな… みんな揃った最後の平和な夜だったもんな。 あの日のことは今でも良く思い出すよ。 敵同士なのをわかっていながら、普通の家族のようだった。 本当に不思議な関係だったな」

ベスパの向かいに座った横島は懐かしそうにあの日の話を語り出した


「私達は一年の寿命の道具だったんだ。 アシュ様の願いを叶えるための…… そんな私達に命をくれたのはあんただよ」

横島の話に続けるように語り出したベスパの表情は、見たことないほど穏やかである


「俺が!?」

「アシュ様が与えてくれなかった、心を私達にくれたのは横島お前だよ。 生きる意味も命の価値も知らない私達は、あんたに出会って道具から命になった」

驚く横島に一瞬だけ笑みを浮かべたベスパは、亡き姉と寄り掛かる妹を見つめゆっくり語ていく


「それは違うと思う。 アシュタロスはお前達三姉妹には自由と心を与えてた気がする。 今考えると不思議なんだよな。 南極でルシオラが裏切った後、カオスが霊体ゲノムのウイルスを解除するまでの間に、何故ルシオラは消滅しなかったんだ? アシュタロスなら眠りにつく前にルシオラを消滅させるのなんか簡単だろ?」

横島の語った話に、ベスパも思わず驚いてしまう

確かにアシュタロスが眠りにつく前に、ルシオラを消滅させるのは不可能ではないとベスパならわかった

戦闘さえしなければ、ルシオラの中の監視ウイルスに指令を与えるくらいは出来たはずである


「じゃあ、アシュ様は……」

「ああ、お前達の心を理解していたんだと思う。 自由に生たければ戦って勝ち取れってことなんだろうな。 まあ、俺の想像だけどさ」

それは、ずっとあの戦いとルシオラを考え続けた横島の想像に過ぎない

しかしあの時のアシュタロスを思い出すと、ベスパにはそれが真実に思えた


「世界の創造と自らの滅びを願っていたアシュタロスは、お前達三姉妹には何かしらの希望を託してた気がしてならないんだよな」

あの戦いで失った二人を想い、しんみりとする横島


「アシュ様… 姉さん…」

その時、ベスパの瞳から一滴の涙が流れた


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