「えっ……、好きなタイプですか？」

次の日、店にやって来た千鶴に話があるからと告げて個室に案内した横島は、突然何の前置きもなく千鶴に好みのタイプを尋ねる。

あまりの突然な話に千鶴は珍しく動揺してしまい、胸の鼓動が一気に早くなるのを感じた。


「ああ、よく知らん奴から告白されて困ってるんだろ？　そいつらを防ぐ虫よけになる人が必要かと思ってな」

しかし横島の言葉は千鶴の予想した言葉ではなかった。

これは完全に千鶴の誤解なのだが、好みのタイプを尋ねられるのはたまにあることなのだ。

そしてそれに続くのはほとんどが告白なのである。

千鶴は一瞬横島に告白されるのかと勘違いしてしまったらしい。


「ええ……」

普段の千鶴ならばそんな勘違いはしないのだが、珍しく真剣な表情の横島に一瞬告白かと過ぎったのは仕方ないことだろう。

千鶴自身はさほど意識してないが、横島に惹かれつつあったのも無関係ではない。

加えて先日の相談の件が千鶴自身は、横島に聞いてもらって結構満足していたことも影響している。

横島は割と真剣に対策を考えていたが、千鶴は困ったら横島に頼れるのだと理解しただけで結構満足してしまったのだ。

その結果まさかその話だとは思いもしなかったようである。


「いろいろ考えたんだが、とりあえず好きな人が居るって噂でも流して様子を見ようかと思ってな」

千鶴の予想以上に真剣で親身になる横島に千鶴自身は嬉しい気持ちになるが、少し残念というか複雑な気持ちも多少あった。

一方の横島は千鶴が自由になるには恋人が出来れば一番なのだが、流石に突然恋人が出来たことにするよりは好きな人が居ると噂を流す程度でまずは様子を見ようと考えたらしい。

相変わらず女の子が関わるとマメで慎重になるようである。


「本当に困ったら助けてくれますか？」

「任せとけって。　これでも面倒事には結構慣れてるんだぞ」

親身になり話をする横島に、千鶴は不思議と不安が消えていく気がした。

きっと困った時は本当に助けてくれると理解してるが、それでも言葉として確認してしまう。


「今はそれで十分ですよ」

ヘラヘラと笑って約束する横島の姿に千鶴はクスッと笑ってしまうと、そのまま満足そうにその約束で十分だと告げる。

それは普段の大人びた表情とは違う年相応の少女の笑顔だった。

正直見た目の美しさや色気に年相応の笑顔を見せられると横島は内心でドキドキしてしまい、それを隠すように笑っているが千鶴はなんとなくそんな横島の変化を見抜いている。


「ご迷惑をかけるかも知れませんが、お礼はしますのでよろしくお願いします」

「迷惑なんかじゃないって。　将来有望な美少女を助けるのは趣味みたいなもんだからな」

相変わらずヘラヘラと笑っている横島だったが、千鶴はそんな横島が何故か頼もしく感じ信じようと思えていた。

相変わらず千鶴自身は自覚がほとんどないが、横島に自分の弱さや苦悩の一部をさらけ出し受け止めてもらったことに喜びを感じているのは確かである。

その感情が何なのか気付いてない辺り、千鶴もまた年相応の少女なのだということだろう。

ちなみに横島だが、相変わらず女の気持ちは理解してなかったりする。