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平和な日常~夏~

その日の店内は朝からパンのいい香りが漂っていた

入口付近のテーブルには十数種類のパンが綺麗に並んでおり、来店者の食欲をそそっている

開店して横島が落ち着いた頃には自分の朝食用に作った似顔絵パンで朝食にするタマモだが、そのあまりの出来栄えのよさに食べるのがもったいなくなってしまい悩んでしまう

結局横島がまたいつでも作れるからと声をかけるとようやく食べ始めるのだが、自分で作った焼きたてパンの美味しさは格別らしく満面の笑顔でパンを頬張っていた

しかも自分が手伝ったパンを客がどう反応するかも気になるらしく、客がパンを食べるたびにじっと見つめて反応を見ていた

美味しそうに食べる客を見ると嬉しそうになるし、無表情だと少し残念そうになるのだ

そんなタマモの反応に気付いた勘のいい常連の客は微笑ましい様子で見守っており、中にはわざわざ分かりやすく美味しそうに食べてあげる客までいたりする

自分と横島で作ったパンが喜ばれたことはタマモにとって本当に嬉しいことらしく、この日のタマモは料理をする楽しさや客との交流の楽しさを初体験していた



そのまま楽しくほのぼのとした朝食の時間が過ぎると、いつも通り店は客が減り常連が時折コーヒーを飲みに来る程度である

この日は暇になった頃を見計らったようにエヴァがやって来たので横島は囲碁の相手をするが、タマモはやはり横島の隣に座ってほとんど無言の二人を静かに見つめていた

相変わらず空気を読むのは自然に出来るらしく、二人の邪魔をしないようにしているようだ


「相変わらず貴様の打つ手は古いな。 抜け目のない打ち方だがとにかく古い」

「そうか? 正直あんまり碁を打った経験がないからな。 よく知らんというのは確かだよ」

ずっと無言だったエヴァがようやく口を開いたと思えば、出た言葉は横島の囲碁の打ち方がとにかく古いという疑問だった

横島はあまり囲碁を打った経験がないとごまかすが、そもそも横島の囲碁の打ち方や知識の元は金毛白面九尾の前世が持つ知識だったりする

ある意味古い打ち方で当然であり、実は横島は最近の打ち方をよく知らないのだ

はっきり言うと横島が魂を継承した者達で囲碁の経験があるのは、タマモの前世だけだった

あとは令子や小竜姫なんかはかろうじてルールを知ってる程度な訳で、横島の打ち方が古いのは仕方のないことである


「嘘ならもっとマシな嘘をつけ。 素人が打つ打ち方じゃないのは馬鹿でも気づくぞ」

「嘘じゃないんだけどな~ 真実でもないけど」

碁石を打つ音が響く中で二人は会話を続けるが、エヴァも別に横島の秘密を暴くつもりはなくただ矛盾点を口にしてるだけだった

まあ以前からエヴァは料理や囲碁の打ち方を見て、横島には何か秘密があると気付いてはいるが……

見た目とそぐわぬ技術も一つだと驚きで済むが、二つや三つと重なると秘密があると考えて当然だろう

ただ追求するつもりがないエヴァとしては、横島が迂闊な人間だと感じる程度である


「もう少し頭のいい奴だと思ったがな」

「そりゃ勘違いだよ」

結局終始意味がない会話を続ける横島とエヴァだったが、タマモはそんな二人の不思議な関係をキョトンと見つめていた



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