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その一

雨戸を閉めた室内は薄暗く、囲炉裏の火が唯一の明かりになっていた

囲炉裏の暖かさと明るさを初めて感じるエミだが、同時にはかない明かりに寂しさも感じてしまう


「こんな場所で生きるの楽じゃないでしょ?」

「ええ、まあ…… でももう慣れましたよ。 結構気楽ですしね」

パチパチと火が燃える音をBGMに、エミと横島はたわいもない話をぽつりぽつりと話していく

特に内容がある話ではないのだが、あまりに静か過ぎる環境にエミが落ち着かなかったのはあるようだ


「美味しくないと思いますけど、どうぞ」

少し恥ずかしそうに夕食をエミに出した横島は、自分も囲炉裏の前に座り夕食を食べはじめる

夕食の内容は、ご飯とみそ汁と野菜の煮物と焼いた魚の干物だった


(気を使わせちゃったみたいね)

出された夕食を食べはじめたエミは、チラリと横島に視線を移す

暮らしぶりから見て、普段の横島の夕食よりは豪華なのは簡単にわかる

お人よしで不器用なところが変わって無い事に、エミは内心苦笑いを浮かべていた


「雨も止みそうに無いし、今日は泊まってもいいかしら?」

食後、雨も上がる様子が無い事からエミはここに泊まると言い出す

元々故障でバイクを押して歩いた事で疲労があり、泊まるつもりだったようだ


「俺の家なんかに泊まっていいんすか?」

「いいも悪いもないワケ。 雨の山道を深夜に帰れる訳ないでしょ!」

「そりゃそうですけど……、あんなに俺の事嫌ってたのに……」

「別に嫌ってはなかったワケ。 まあ興味もなかったけど」

突然泊まると言い出したエミを、横島は不思議そうに見つめていた

互いに昔と違うのだと理解はしているが、やはり不思議な感覚のようだ


「オタクがここで邪な事を考えるようなら、こんな山奥で生きてないでしょ? まあ、呪われる覚悟があるなら私を襲えばいいわ」

若干戸惑いを感じてる横島に、エミはニヤリとからかうような笑みを浮かべる


「アハハ…… そんな勇気ないっすよ」

からかうエミに思考が読まれてる事に苦笑いを浮かべた横島は、風呂を沸かすために外に出ていく

山奥で全て自分でやるのは大変だが、一番の問題は時間がかかる事である

風呂を沸かすのも井戸から水を組み、まきで火を起こし温めなければならないのだ

幸いにして水組みは昼間にやっておいたためお湯を沸かすだけなのだが、やはりそれなりに大変な作業だった


「ゴエモン風呂なんて始めてなワケ」

数十分後になり横島に促されるまま風呂に入るエミだが、本当にタイムスリップしたような気分である


「天気がよければ星が見えるんすけどねー」

「星を見ながら風呂に入るなら、それなりの相手が欲しいワケ」

外で風呂の火加減を見ている横島は、晴れたら見える満天の星空が見えない事が少し残念なようだ

しかしエミはそんな横島を気遣ったのか本心なのかわからないが、サラリと気にしてないような答えである


「湯加減どうっすか?」

「ちょうどいいわよ。 なんなら一緒に入る?」

「マジっすか!? じゃあ……」

「冗談に決まってるでしょ!!」

本気なのか冗談なのか、からかってるのかからかってないのかわからない感じで話す二人

変われない二人の変わった一面が、ここに現れていたのかもしれない


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