「お願い出来ますか？」

横島と魔鈴の意見が纏まらぬまましばらく時間が過ぎる中、ピートは真剣な表情で沈黙を破る


「本当にいいのか？　お前は知らんだろうが、おふくろのやり方はかなりキツイぞ」

百合子を知らないピートに横島は念を押すように言うが、ピートは変わらない


「先生の事は尊敬してます。　だからこそ僕は先生に自分を労ってほしいんです」

悩み苦悩するピートだが、唐巣の危うさという事では一番危機感を感じている

ピート自身も今まで何度も体調を気遣うように頼んだが、唐巣は聞かなかった過去があった

少しくらい強引でも唐巣には長生きして欲しいというピートの切実な願いがある


「まあお前がそう言うなら構わんが、フォローは必要だぞ」

百合子に頼む事を渋る横島だが、ピートの真剣さに負けて承諾してしまう

その後魔鈴を通して頼まれた百合子は六道冥菜に会いに行き、唐巣をＧＳ協会幹部にする事でとりあえず落ち着いていたのだ



「私のような若輩者が言うのは間違ってるかもしれませんが、もう少しご自分を大切にして下さい。　貴方に助けられた多くの人々も、貴方の命を縮めてると知ればショックを受けるでしょう。　無理は決して美徳ではないですよ」

さて時は病室に戻って、複雑そうな唐巣に魔鈴は言いにくそうにしながらもハッキリと唐巣に言葉をかける

誰かが言わねばならない事だがピートはそこまで強く言えないし、横島は上手く言葉では言えない

これは年上として魔鈴が自分の役割だと感じている


「魔鈴君、わかってはいるんだよ」

ＧＳ協会幹部の話を悩んでいた唐巣は、魔鈴の言葉に少し驚きつつ苦笑いを浮かべてわかってはいると告げる

しかしわかっているだけでは意味がないのだ


「貴方にもしもの事があれば、貴方が助けていた本当の弱者はどうなるのですか？　もう少し自分を大切にして将来を見て下さい」

そこまで言って深く頭を下げる魔鈴に、唐巣は返す言葉がない

同じように人々の幸せを願い弱者の事を考える魔鈴だからこそ、その言葉は重かった


「助けられた人や残された人の気持ちも考えて欲しいっすよ」

横島はちょっと困ったように一言つぶやくと、その瞬間部屋は静まり返る


（横島君……）

それは唐巣にとって初めて見る横島だった

少し困ったように苦笑いを浮かべてはいるが、その瞳には後悔や苦悩や怒りなど様々な感情が渦巻いている

唐巣自身は間接的に横島の現状を知り苦悩も聞いていたが、実際目の前で見ると言葉が出ない


「俺、馬鹿だからわかんないっすけど……　もっといい方法があると思うんです。　生意気な事言ってすいません」

そこまで言うと横島は一人で病室を出ていく

横島自身も言い過ぎだと思うし、余計なお世話だとも思う

しかし唐巣が倒れるたびに心配して考え込むピートの姿を思い出すと、つい言ってしまったようだ


「勝手な事ばかり言って、本当に申し訳ありませんでした。　私達は今日は失礼します」

言葉が出ない唐巣に、魔鈴はもう一度頭を下げてタマモとシロと共に病室を後にする